「パナマ文書」物語ーその1

「パナマ文書」物語―その1

 

はじめに;

そもそもの発端は、2015年の4月ごろ匿名の人物から南ドイツ新聞に送られた、このメッセージから始まったそうです。44付けの南ドイツ新聞によると、この匿名の人物の身の危険を案じ、数ヶ月間、スパイ映画のワンシーンのごとく暗号化された言葉のやり取りで情報提供を受けたそうです。

この匿名の人物がこの情報を提供した理由は、犯罪を公にしたいということだったそうで、金銭などの要求は一切なかったとのこと。

 要するに、「パナマ文書」とは、タックスヘイブン(税率が著しく低い or ない国や地域)にペーパーカンパニー設立の仲介をしていたパナマの法律事務所から顧客情報が流出した事件なのです。

世界中の政治家・公職者(またはその親族・友人)の名前がパナマ文書に列挙されており、世界中の大富豪や資産家たちがタックスヘイブンを利用して税を逃れていたことがバレてしまって、いま世界各国で大きな問題となっています。

 

『これは大スキャンダルだが、とてもじゃないが扱いきれない』膨大なボリュームと感じた南ドイツ新聞は、ICIJ(国際調査報道ジャーナリスト連合)に連絡をとったのです。

そして、ICIJのテクノロジースタッフが独自のサーチエンジンの仕組みを作り、一大極秘プロジェクトとして世界約80カ国総勢400人にも上るジャーナリストたちと調査を行ったとのこと。

そして、一年以上の歳月をかけて世界中にリークされたのが、世界中の資産家たちが税金逃れをしていた証拠と成り得るデータ『パナマ文書』なのです。

 

 

2.膨大なデータの分析を引き受けたICIJとは?

 ICIJとは「International Consortium of Investigative Journalists」の頭文字を取ったもので、国際調査報道ジャーナリスト連合という意味です。

そして、ICIJはアメリカ・ワシントンに本部がある(NPO組織)非営利組織であり、国際的なジャーナリストたちで構成された報道機関なのです。

 

 汚職にまみれ、権力のあるものが市民をコントロールし、利権を貪るようなことは重大な問題だとして、19893月、アメリカは非営利調査報道機関『CPICenter for Public Integrity)』を立ち上げたのです。

CPIは『政界・財界の権力に左右されず、権力者の汚職や怠慢を暴くこと』を使命とし、寄付によって成り立つ非営利組織。 そして、さらにCPIは様々な国々の開放性や説明責任を訴えるため、1997年にICIJ(国際調査報道ジャーナリスト連合)を設立。

この考え方に賛同し、ICIJに参加している国は、なんと60カ国以上、160人以上の国際的な調査ジャーナリストがいるとのこと。 このようにして、非常にパブリックな組織ICIJができることとなったのです。どこの傘下にも入っていない報道機関があったからこそ、どこかの国のように報道規制やスポンサーに圧力をかけられることなく、今回のパナマ文書が明らかになったということが言えるのではないでしょうか。

 これに参加している日本から、パナマ文書の分析作業に参加したジャーナリストは、朝日新聞、共同通信からの4人(内日本人は2人)と言われています。(参照:【パナマ文書のプロジェクトメンバー一覧】https://panamapapers.icij.org/about.html )

 

 ICIJの活動ですが、これまでに『国際的な闇取引(暴力団組織の密輸、違法カルテル、中東との武器契約)』など、様々な調査を行ってきたことが知られています。そして、ICIJがこれほどまでに大きな案件のリークを行うのは、実は今回がはじめてではありません。

2013年には各国の政府高官や富裕層がタックスヘイブンで資産隠しをしている事実を暴き、2015年にはスイスの大手銀行が富裕層の巨額の脱税をほう助していることをリークし、それらの不正が白日のもとに晒されました。

 

 

3.「パナマ文書」をめぐる主要国等の反応等

 ICIJでの党プロジェクトのディレクターライル氏によると、プロジェクトに参加した報道機関は『パナマ文書』を手にしているとのことですが、今回の目的はあくまでも公的な人物による資産隠しの暴露。 違法行為を行っていない人物の情報も同時に載っていると指摘した上で、取り扱いに注意が必要だと呼びかけているそうです。

(参考:)オフショアリークスデータベース

 報道機関の報道を見ていても、専門家は、政治家は道義的に問題があるからアウトで、企業がこういったタックスヘイブンを利用した節税対策は違法性がないから問題なし、という言い方で印象操作をしているようにも見受けられます。

 

租税回避地への法人設立を代行するパナマの法律事務所の金融取引に関する過去40年分の内部文書が流出。各国政府は4日、各国指導者や著名人による脱税など不正取引がなかったか調査を開始した。

「パナマ文書」と呼ばれる機密文書にはロシアのプーチン大統領の友人のほか、英国、パキスタンなどの首相の親類、ウクライナ大統領やアイスランド首相本人に関する記載があり、波紋は世界中に広がっている。一部報道によると、サッカーのスペイン1部、バルセロナのリオネル・メッシ選手の名前も挙がっている。

「モサック・フォンセカ」は、不正行為を否定

世界各国の顧客向けに24万のオフショア企業を立ち上げたとするパナマの法律事務所「モサック・フォンセカ」は、不正行為を否定。自身のウェブサイトに4日、メディアは同事務所の仕事を不正確に報じているとのコメントを掲載した。

同事務所の1977年から昨年12月までに及ぶ同文書は、「国際調査報道ジャーナリスト連合」(ICIJ)が公表、世界中の100以上に上る報道機関に流出した。

オフショア企業に資金を保有すること自体は違法ではないが、流出した同文書を入手したジャーナリストは、脱税やマネーロンダリング(資金洗浄)、制裁破りや麻薬取引、その他の犯罪に使われる隠し財産の証拠となり得るとみている。

パナマ文書流出を受け、米司法省報道官は、米国の法律に違反する汚職などの行為がなかったかどうか司法省が調査に着手したとし、「米国、もしくは米金融システムに関連がある可能性のある汚職をめぐるすべての疑惑を司法省は非常に深刻に受けとめる」と述べた。ただこれ以上の詳細については明らかにしなかった。

ホワイトハウスのアーネスト報道官は、米国は国際的な金融取引の透明性に多大な価値を置いているとし、財務省、および司法省は調査を実施するための専門家を抱えていると指摘。

専門家による調査で文書に記載されている金融取引が米国が導入している制裁措置や国内法に違反するものかどうか判明すると述べたが、詳細については語らなかった。

フランス政府は、パナマの法律事務所から多数の金融取引文書が流出したことを受け、脱税に関する予備調査を開始した。金融専門の検察官が、流出文書から、フランスの納税者が悪質な脱税に関与しているかどうかを調べるとしている。

ドイツ財務省報道官も「仕事を始める」ことを明らかにしたほか、オーストラリア、オーストリア、スウェーデン、オランダも1150万枚以上に上る膨大なパナマ文書に基づく調査を開始したとしている。

過去に父親のビジネスに関連するオフショア企業のディレクターを務めたことのあるアルゼンチンのマクリ大統領は、野党から説明するよう追及されているが、テレビのインタビューで、父親の会社は合法であり、いかなる不正も否定した。

汚職危機に揺れるブラジルでは、7党の政治家がモサック・フォンセカのクライアントに名を連ねていると、「エスタド・ジ・サンパウロ」紙が報じた。そのなかには、ルセフ大統領率いる労働党の議員は含まれていなかった。同国の税当局は、パナマ文書にある脱税情報を確認するとしている。

ロシアの大統領報道官は疑惑否定に躍起

ロシアのペスコフ大統領報道官は、パナマ文書にプーチン大統領とオフショア投資家との数十億ドル規模の取引が記載されていたとの報道に関して、2年後の選挙を控えて大統領の信用を失墜させる目的だと非難した。

同報道官は記者会見で「今回の虚偽情報の主な標的は大統領だ」と言明。「『プーチン嫌い』が広がったせいで、ロシアやその業績について良いことを言うのはタブーになっている。悪いことを言わなければならず、何も言うべきことがなければでっち上げられてしまう。今回の事件がその証拠だ」と述べた。

英紙ガーディアンによると、プーチン大統領の幼なじみでチェリストのセルゲイ・ロルドゥギン氏を含む同大統領の友人たちに関連する秘密のオフショア取引やローンは20億ドル(約2218億円)相当に上る。ロイターはこうした詳細について確認していない。

裕福な株式ブローカーだった亡父とオフショア企業とのつながりについて記載されていたキャメロン英首相の報道官は「個人的問題」だとし、それ以上コメントするのを差し控えた。「パナマ文書」の顧客リストには、首相率いる保守党メンバーも含まれており、英政府は流出したデータの内容を調査すると発表した。税逃れを批判してきたキャメロン首相にとって打撃となりそうだ。

パキスタンは、同国のシャリフ首相の子供たちがオフショア企業とのつながりが記載されていたことについて、いかなる不正も否定した。

ウクライナのポロシェンコ大統領は、税金逃れのために租税回避地の企業を使っていたとの疑惑について、説明責任を果たしているとして自身を擁護した。ウクライナの議員らは疑惑を捜査すべきだと訴えている。パナマ文書によればポロシェンコ氏は、ウクライナの東部で政府軍と親ロシア派武装勢力の戦闘がピークを極めていた20148月、自身の菓子会社「ロシェン」を英領バージン諸島に移すため、オフショア企業を設立していた。

アイスランドのグンロイグソン首相夫妻が租税回避地の企業とつながりがあると同文書にされていたことを受け、首相は辞任要求に直面。野党は不信任決議案を提出した。

パナマ文書の波紋はサッカー界にも広がっている。

バルセロナのメッシ選手が納税を逃れるためにパナマに法人を設立していた疑いがあるとのスペインメディアの報道を受け、同選手の家族は、「メッシはこのような疑惑に一切関与しておらず、報道は誤りであり有害」との声明を発表。報じたメディアに対して法的手段を取ることも検討すると述べた。同選手が所属するバルセロナも声明で、「メッシの家族が公にした反論を信頼している」と、同選手を支持する立場を明らかにした。

中国は報道規制、検索も制限

パナマ文書流出を受け、中国当局は報道規制をかけている。オンラインニュースの一部の記事を削除したり、検索も制限しているようだ。ICIJによると、文書には中国の習近平国家主席など、同国の現職・旧指導部の一族に関連したオフショア企業が入っているという。中国政府からはパナマ文書について、公式な発表などはない。ロイターは国務院広報室にコメントを求めたが、現時点で回答はない。

中国国営メディアはパナマ文書をほとんど報道していない。中国の検索エンジンで「パナマ」をサーチすると、この件に関する中国メディアの記事が出てくるが、リンクの多くは機能しないか、もしくは、スポーツスターをめぐる疑惑に関連した記事に飛ぶようになっている。

 

経済協力開発機構(OECD)は4日、パナマが他国と情報共有を行うという合意を守っていないとし、税務の透明性に関する国際基準を満たすよう同国に求めた。グリア事務総長は声明で「パナマの税務の透明性が国際基準に沿っていないことの結果が、公の場で明るみに出た」と指摘。「パナマは直ちに同基準に合わせる必要がある」と述べた。

 

 

4.アメリカ陰謀説等の報道

パナマ文書において、アメリカの企業や人物・政治家のリストが少ないという報道や、アメリカ陰謀説等の報道に疑問を感じた人は多いのではないでしょうか?

しかし、米国人の名前が全く出ていないわけではありません。現在までに報道されている、「パナマ文書」に含まれる米国人の名は、中国生まれで、米国に帰化したウォール・ストリートの金融業界大物、ベンジャミン・ウェイ(魏天冰)氏、富豪で不動産王のイゴーリ・オレニコフ氏をはじめ、マサチューセッツ州を拠点とする著名実業家のジョナサン・カプラン氏などである。さらに、元ハリウッドの有名子役であり、ハイアット・ホテルズの遺産相続者の一人でもある、リーセル・プリツカー・シモンズ氏の名もある。彼女は、現在、米商務長官を務めるペニー・プリツカー氏の親類であり、「パナマ文書」がオバマ政権中枢を巻き込むスキャンダルに発展するのか、興味のあるところだ。

また、ハリウッド関係では他にも、米音楽産業のドンで、映画プロデューサーでもあるデヴィッド・ゲフィン氏の名が挙がっている。

出典:「米国は税逃れ天国」パナマ文書が米国で騒がれない本当の理由

 

ICIJ(国際調査報道ジャーナリスト連合)『米国人の名前が少ないのは、国内(デラウェ州・ネバダ州など)で同様の租税回避ができるため、わざわざパナマを利用する必要がなかったからだ』という見解を示しています。

 アメリカ国内のタックスヘイブンで有名なデラウェア州などは、日本企業や日本人にも人気のタックスヘイブンですが、人口89万7934名に対して94万5326社存在しています。デラウェアはタックスヘイブン(租税回避地)としてはあまりにも巨大なのですが、その理由として、企業にとって税制上かなり優遇される法律のもと、ペーパーカンパニーに対する秘匿性が高いという点が挙げられます。

【金融秘密度指数】2015年度

1位:スイス 2位:香港 3位:アメリカ 4位:シンガポール 5位:ケイマン諸島 6位:ルクセンブルク 7位:レバノン 8位:ドイツ 9位:バーレーン 10位:アラブ首長国連邦 11位:マカオ 12位:日本

出典:Tax Justice Network

 

 

5.パナマ文書は氷山の一角

著者Gabriel Zucman(ガブリエル・ズックマン)による金融資産の台帳作成で国際連携を提言している「失われた国家の富」によると、

世界の金融資産のうち8%がタックス・ヘイブンにあり、その額は58000億ユーロ(約810兆円)にのぼる。具体的には30%を占めるスイスを筆頭にケイマン諸島、香港などに所在。著者のタックス・ヘイブンの定義の中には、スイス、ルクセンブルク、アイルランドなども含まれている。

タックス・ヘイブンを利用する最大の長所は、どこからも課税されないということだ。58000億ユーロのうち80%が税務申告されておらず、関係諸国の損失金額(所得税、相続税などの「脱税額」)は年間1300億ユーロに達するようだ。

こうした分析を踏まえ、著者は大胆な政策提言を行う。1.全世界規模での金融資産台帳の作成、2.タックス・ヘイブンに対する金融面・貿易面での制裁措置、3.グローバルな資産課税などである。1.は株式、債券、投資ファンドなどの最終投資家の名前を記した台帳の作成が必要となるが、国ごとには存在する金融資産台帳をまず各国レベルで精緻化、共通化し、その国際的統合を国際通貨基金(IMF)がすべきだという。

日本で考えれば将来的にマイナンバー制度が進化し、個人別の資産総額が判明することが第一段階だろう。そのうえでグローバルな名寄せを行う必要があるが、それにははたしてIMFが適任かどうか。むしろこの方式に参加せずにより多くの資金を取り込もうとするタックス・ヘイブンもあるだろう。

 

6.1専門家の見方

シティ大学ロンドンのロナン・パラン教授に聞く(出典:http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/interview/15/238739/051000167/?ST=print

によると、

―米国企業や著名人の名前は浮上していないことについては;

まだパナマ文書の全貌が明らかになったわけではないので、今後米企業や政治家の名前が発表される可能性はある。ただ、現時点でその理由は次の2つが推測されている。1つは、米CIA(中央情報局)がパナマ文書のリークの背後にいることもう1つは、米国とパナマの間には既に政府レベルで厳しい規制が敷かれており、米国人や企業がパナマにおける資産隠しや節税行為自体を減らしている可能性がある

 前者はいわゆる陰謀説なので、半分は冗談だが(編集部注:57日、パナマ文書の告発者が匿名のインタビューに応じ、米国諜報機関などとの関連を否定している)、後者の可能性はあり得ると思う。米国ではオバマ政権後、タックスヘイブンに対する規制を強化している。米国 人顧客の身元や保有資産に関する報告を外国の金融機関に義務付けるFATCA(外国口座税務コンプライアンス法)、あるいはM&A(合併・買収)などの際に税率の低い地域に税務上の本社を移すタックス・インバージョンの規制強化など、世界的にも厳しい条件でのぞんでいる。

 いずれにしても、今後どのような名前が出てくるか、それによって実態が見えてくるだろう。

 

―米国の規制強化もそうですが、パナマ文書をきっかけに、タックスヘイブンに対する国際的なルール強化の機運が高まっています。

米国だけでなく、英国ではデビッド・キャメロン首相が悪質な課税逃れへの対応を強化する方針を示している。さらに、EU(欧州連合)全体でも税逃れに対する圧力をかけようという姿勢は強まっていると私も実感している。好ましい流れだと思う。

 

―国際機関の規制には限界がある

国際機関レベルでの連携もさらに進むだろう。OECD(経済協力開発機構)が税逃れ対策のために頻繁に会合を開き、新しい課税逃れの規制強化に乗り出している。

 

―タックスヘイブン自体の減少につながりそうですか。

 ここが難しいところだが、個人的には国際機関のこのような動きには限界があると感じている。国を越えた連携というのは各国の政治に左右される。規制を統一することは相当の困難を伴う。政治的に連携しているEUでもない限り、法的強制力を持たせることは難しい。例えば、OECDの規制強化方針を拒否し続けているパナマを完全に従えさせるのは難しいだろう。実際にそれを実行しようとすれば途方もない時間がかかる。

 国際機関を通じた取り組みを続けることは重要だが、やはり最後は各国独自の規制を強化していくしかないと思う

 例えば、タックスヘイブンと世界的に評されている国に対して、節税あるいは資産隠し目的の会社を設立する場合に、必ず自国政府や当局に届け出る。国が、誰がどこに会社を設立しているかをリスト化し、監視するようにして、「これらの国に会社を設立することは、自国の政府から疑いを持たれるリスクがある」と認識させることだ。タックスヘイブンの最大の特徴である「秘匿性」に網をかける必要がある。

 

世界経済の中心である米国、EU、中国、日本がこのルールの徹底に同意すれば、資産隠しの行為は減るだろう

 ただ、これまでタックスヘイブン対策に消極的だったパナマは、今回の事件によって対策を迫られるだろう。世界各国からの圧力がかかってくるだろうから、パナマ政府は(既存の方針を変えるかどうか)大きな決断は迫られる。

 

―企業の過度な節税対策への監視の目が厳しくなっています。

2月に起きた、米製薬会社ファイザーによるアイルランドのアラガン買収計画の撤回はまさに米国の規制強化の成果だろう。ファイザーは、節税目的でアラガンを買収したことを自ら証明してしまった。

 今回のパナマ文書は、企業と個人という点で違う事件ではあるが、背景にある租税逃れに対する当局の規制、そしてメディアや世論から厳しい視線を受けるという点では共通する。

 節税自体は違法ではなかったとしても、行き過ぎた行為に関しては、個人だけでなく、法人に対しても、厳しい目が向けられるのは間違いないだろう。しかし、それでも抜け穴はあるし、課税を少しでも回避したいというニーズは存在する。タックスヘイブンは、そうしたニッチなニーズの受け皿として存在してきた。だから、パナマが政府の方針を変えてタックスヘイブンの規制強化に乗り出したとしても、他の国が次のパナマの座を狙う可能性はある。小国にとっては、それがグローバルで生き抜く道でもあるからだ。

 世界のタックスヘイブンの過半数は、きわめて小さな法域であり、大半が、人的資源を育成する大学などの教育機関もなければ、研究センターもない。国を養っていけるほどの地域資源もない。

 だからこそタックスヘイブンは、手数料と引き換えに、唯一の主要な資産である「主権」を使って非課税特区のような空間を構築し、企業や個人を集めている。この特権こそが、彼らにとって唯一、世界の消費者を惹きつける商品であり、これによってグローバル世界で生き残ろうとしている。

 

―今後も、節税したいというニーズがある限り、その需要にこたえようとする国は存在し続けると。

残念ながら、それは事実だ。ここ数年で、タックスヘイブンのトレンドは大きく変化している。パナマやケイマン諸島など伝統的なタックスヘイブンから、今はシンガポールやドバイ、バーレーン、香港が新たなタックスヘイブンとして存在感を高めている

 

―タックスヘイブンは国際ビジネスに不可欠な仕組み

 こうした動きの背景には経済活動の中心が欧米からアジアに移ってきていることがあるが、もう1つは彼らもまた「特権」が商品になると認識していることだ。やっかいなことに、これらの国では、欧米が圧力をかけても、なかなか動かない。OECDといった西洋が主導するルールを、これらの国がどれだけ順守するかは、正直わからない。ここでも私は国際協調の限界を感じている。(パナマの財務副大臣は、パナマがOECDのルールに従うことを明確に否定している。)

 理解していただきたいのは、タックスヘイブンは世界経済の末端で起きている遠い出来事ではなく、現代のビジネスに不可欠なシステムとして組み込まれているということだ。タックスヘイブンは国家の規制の抜け穴のように見えるが、決して対立する存在ではなく、ある国にとっては調和的に存在している。

 

―タックスヘイブンは、ある国にとっては調和的に存在している

 タックスヘイブンに流れ込んでいる資金の総額は、正直、推測するのは難しい。OECDによれば、多国籍企業がタックスヘイブンなどを利用した節税策によって課税を逃れている法人税収は全世界で年1000億~2400億ドル(約108000億円~259000億円)に達するという

 もはやタックスヘイブンは、金融の世界、組織、国、個人の財源を管理するビジネスに組み込まれている。これを切り離すのは、簡単ではない。

 

7.日本の1ジャーナリストの見方

 

2016年4月14日 山田厚史 [デモクラTV代表・元朝日新聞編集委員]:http://diamond.jp/articles/print/89582

 

「パナマ文書」の税逃れ問題に各国が本腰を入れない真の理由

 タックスヘイブンに隠匿された資産の一端を暴いた「パナマ文書」が世界を震撼させている。アイルランドで首相が辞任、英国ではキャメロン首相が窮地に立たされている。ロシアのプーチンも中国の習近平も強烈なボディーブローを食った。

 隠匿資産にはいろいろある。権力者が私腹を肥やした財産を隠すのは途上国に多く、先進国では金持ちが税金逃れの財産を隠す

 どちらも国家・国民に対する重大な背信行為だが、利用者たちは「法に触れることはなにもしてない」と言いつのる。

 先進国はどこも財政難で、増税や歳出削減が叫ばれている。だったら真っ先にすべきは、税金を払うべき企業や個人が、合法的に逃げる「租税回避」の解消ではないか。ところが対策は遅々として進まない。なぜか。

 タックスヘイブンを必要とする勢力が強いからだろう。多くの国で、指導者が関与していたことをパナマ文書は明らかにした。

「警察署長が事件の黒幕」みたいな話である。背後には、もっと深い闇がある。金融ビジネスの闇である。

「伊勢志摩でタックスヘイブン対策」も茶番に終わる公算が大

 安倍首相が議長を務める伊勢志摩サミットで「タックスヘイブン対策」が話題となる、という。各国では手が及ばない難題こそサミットにふさわしい。首脳が集まりながら「パナマ文書」を無視することはできまい。

 14日のG7財務省・中央銀行総裁会合の議題に上がるという。納税は国家の土台だ。財政・金融の責任者が真剣に向き合う課題だろう。だが、結論は見えている。「経済開発協力機構(OECD)の作業部会で進められている対策の進展に一層の力を入れる」というような文言が声明に盛られ、お茶を濁すことになるだろう。

参考;

G7財務相会議2日目 「パナマ文書」で議論〈G’7せんだい〉

5月21日 9時31分

伊勢志摩サミットを前に仙台市で開かれているG7=主要7か国の財務相・中央銀行総裁会議は2日目の21日、いわゆる「パナマ文書」の問題を受け不正な課税逃れを防ぐための対策などについて、意見を交わします。

サミットに向け、世界経済の課題を議論するG7の会議は21日、2日目の討議に入りました。 21日はいわゆる「パナマ文書」の問題を受けタックスヘイブン、租税回避地を利用した不正な課税逃れや資産隠しへの対策について意見を交わします。「パナマ文書」は各国の首脳や富裕層の隠れた資産運用を明らかにしこれをきっかけに税の公平な負担を求める声が世界的に高まっています。 このためG7は外国の個人や企業が自国の金融機関に開いた口座情報を各国の税務当局どうし定期的に提供しあうなど、不正な課税逃れなどに対する国際的な監視の強化について議論します。 麻生副総理兼財務大臣はG7開幕前の19日、記者団に対し「課税逃れやマネーロンダリングへの対応に注目が集まっているのは承知しているので、議長としてしっかり議論を進めていきたい」と述べました。 会議では、世界各地でテロ事件が相次いでいることを受けテロ資金を封じ込める対策についても意見を交わし、午後の討議で各国が取り組む行動計画の策定を目指します。 G7は21日閉幕し共同議長の麻生副総理兼財務大臣と日銀の黒田総裁が会見して、サミットに反映させていく議論の成果を明らかにすることにしています。

  仙台市で開かれた先進7カ国(G7)財務相・中央銀行総裁会議は21日、タックスヘイブン(租税回避地)を利用した「パナマ文書」を受けた課税逃れ対策やテロ資金対策について、G7が主導して進めていくことを確認し、閉幕した。

 

 タックスヘイブンは2013年、北アイルランドのロックアーンで開かれたG8サミットで主要議題として取り上げられた。議長は英国のキャメロン首相。この年は多国籍企業の脱法的節税が問題になっていた。

 グーグル、アマゾン、マイクロソフトなどの多国籍企業がタックスヘイブンにペーパーカンパニーを作り、帳簿上の資金を経由させることで税金を逃れていた。英国では、スターバックスが積極的な事業展開をしながら税金はほんのわずかしか払っていないことが議会で問題になった。

「徴税の公平を歪めるタックスヘイブンの利用」を声高に批判していたキャメロンはサミットの議題に取り上げたのである。

 納税回避だけではない。「テロとの戦い」はテロ資金を封ずることなしに進まない。対策は米国にとっても重要度を増していた。

 このサミットが茶番だったことは「世界かわら版・第38回」に書いた通りである。議事を仕切ったキャメロンは、形ばかりの対策で問題を先送りした。タックスヘイブンの裏でロンドンの金融街シティが重要な役割を演じているからである

 英国が敢えてサミットのテーマに選んだのは、フランスやドイツが議長国の時に国際租税問題が議論されることを避けたかったからと推察できる。英国の金融界が節税に一役買っていることにEUの大陸諸国は厳しい目を向けている。

ロンドン金融街シティと英政府、タックスヘイブンの密接な関係

 キャメロン首相は親の代からタックスヘイブンに深くかかわっていたことが今回明らかになった。当事者だからこそ自分の手で穏便に済ませたかったのだろう。

 キャメロン家の構造に、タックスヘイブンと政府の関係が見える。家系はエリザベス女王の遠縁にあたるという。

「近代英国の金融界で重きをなした人物が多く、父・イアンに至るまで代々投資銀行パンミュア・ゴードンの経営に携わっている」

 ウィキペディアにそう書かれている。シティの有力者であった父親はカリブ海の租税回避地に会社を設立し、財産を運用していた。息子は上流階級の子弟が集まるイートン校に入れた。デイビッドはオックスフォード大学に進み哲学・政治学・経済学で優秀な成績を残し、22歳で保守党調査部に入った。サッチャー・メージャー両政権で政策の作成に従事し、財務大臣のスピーチライターも務めた。

シティの金融業者は、いわば「ベニスの商人」で、隠然たる力はあっても政治の中枢にはいない。この流れが変わったのが金融資本主義の到来である。貴族に代わって実業家が力を持ち始める。

 製造業が衰退した英国は、サッチャー政権の下でシティの大改革「金融ビッグバン」に踏み切る。大胆な規制緩和で世界からカネを呼び込む金融立国への道は、キャメロンが調査部にいたころ築かれた。

金融取引には不正や暴走を防ぐ様々な規制(ルール)が設けられている。一方でカネ儲けしたい人たちは規制を嫌う。「抑制的なルール」と「金儲け願望」が綱引きしているのが金融市場である。

 サッチャー首相は「自己責任」を掲げ、金融の自由化に舵を切った。典型が「オフショア市場」だ。シティの銀行が扱う「海岸線の外側での取引」にサッチャーは活路を見出した。

 預金者からカネを預かる銀行は、損失や不正が起きないよう厳格なルールが欠かせないが、それとは別に「金融特区」のような別勘定をシティの中に広く認め、国外から来て、国外に出てゆく「外―外取引」はオフショア勘定で自由にどうぞ、という政策である。

 自由=緩いルール=金儲け願望の全開、である。そこにタックスヘイブンがからんだ。

「緩いルール」だけでは安心できない金持ちは少なくない。他人に知られたくないカネを抱えている人だ。オフショア勘定であってもロンドンの街中に置いておくのは心配だ。

 そこで金融業者が目を付けたのが、女王陛下の属領であるカリブ海やドーバー海峡の島である。

 金融街も取引所もないヤシの繁る風光明媚な島が、実体のない「ペーパーカンパニー」の巣窟になった。小さなオフィスビルに数千社が登記されている。

「パナマ船籍」の貨物船が世界中の港にあるように、名義だけがタックスヘイブンにあり、カネを運用するのはシティの投資銀行、という仕掛けだ。キャメロン首相の父親は、こうした仕事をしていたのだろう。

パナマ文書の漏洩元であるモサック・フォンセカ社は、現地で会社登記など実務を担当する会社だ。いわば司法書士のような仕事である。「口が堅いことで知られていた」というが、経営者が頑固だったからではないだろう。聞かれても言わないで済む、強い後ろ盾があった、ということだ。

背後には、顧客を紹介し、その財産を管理・運用する銀行が控えている。モ社はその手先という役回りである。

おカネは現金とは限らない。ほとんどは銀行口座の預金となっている。あるいは国債やデリバティブのような金融商品として口座で管理されている。タックスヘイブンの会社には現金や財宝は保管できない。会社の登記があるだけで「隠匿資産」の管理運用は銀行抜きにはできない。タックスヘイブンは金融資本の便利な道具に過ぎない。

英国と香港のコネクションから習近平首席らの名前も浮上

 パナマ文書には、モ社は1万5600社のペーパーカンパニーの設立にかかわった記録がある、という。スイスのUBS、クレディスイス、英国のHSBCなどが関係していた。

 スイスの銀行は元祖タックスヘイブンである。永世中立の国家を盾に個人情報の秘匿を売りに世界から資金を集めていた。ナチに処刑されたユダヤ人の資産を独り占めにしたことや脱税協力などが問題にされ、秘密主義に風穴があき、海外のタックスヘイブンとの連携が必要となった。

 HSBCは、前身が香港上海銀行である。英国が中国支配のために設立した銀行だ。かつては上海の金融街の中心にあり、共産党が政権を取ったあとは香港に拠点を移し、中継貿易を裏で支える銀行だった。

 シティの強みは植民地ネットワークである。カネを糸口に権力とつながり情報ルートや人脈を太くしてきた。香港返還でHSBCは英国に本店を移し、英国第3位のミッドランド銀行を合併して今や世界屈指の銀行に成長した。膨張する中国経済がビジネスを大きくした。中国の風土で育った銀行である。危ない橋を渡る銀行としてHSBCは有名だ。

 今回、習近平国家主席ら中国要人たちの親族の会社も明らかになった。中国をカリブ海の島につないだ誰かがいるのだ。キャメロン政権は中国が主導したアジア国際投資銀行(AIIB)にいち早く賛成するなど、金融では米国と一線を画した政策をとっている。香港を通じてつないできた人脈を生かし、中国マネーをシティに取り込む英国の姿が浮かぶ。

 香港、シンガポール、マレーシアのラブアン島。英国がアジアに育てた金融拠点だ。今や発展著しいアジアの資金を吸い込むネットワークとなり、カネと情報が一緒に流れる。

 キャメロン政権がEU内で「英国特別扱い」を主張してきたのは、外交と金融で生きる英国の特殊性を守りたいがためだろう。

 投資銀行の家系に生まれ、絵に描いたようなエリートコースから政界入りしたキャメロン。影の支配者だった金融資本が表舞台に送り込んだ政治家ともいえる。その足元からシティのスキャンダルが噴き出たのである。

近代資本主義・民主主義からの明らかな逸脱 タックスヘイブンは金融危機とも無関係ではない

 バドミントンの有名選手が五輪目前に出場資格を剥奪された。違法カジノに出入りしていたことで処分された。有名な元野球選手が覚せい剤で捕まった。

 違法カジノも覚せい剤も、お客が罰せられた。悪事に手を染めたのだから当然の報いだろうが、「悪事のシステム」を作った供給者の責任はどうなのか。当然、捜査の対象になる。

 パナマ文書で「お客の悪事」が世界で大問題になっている。お客に「悪事のシステム」を供給した側、すなわち金融資本の責任追及はどうなっているのか。

 タックスヘイブンは「悪いこと」ではないのか。利用者は「合法的な節税」という。だれもが利用できる制度なら、節税という言い訳も成り立つかもしれない。だが、海外に会社を設立して資金を移す、ということは誰もができることではない。

高額所得者は、それなりの納税をして国家社会を支える、ということは民主主義の要ではなかったか。金持ちはタックスヘイブンで合法的に節税ができるが、中・低所得者は厳格に徴税される、という仕組みで社会は成り立つのか。勤勉と公正を大事な価値として発達してきた近代資本主義や民主主義の思想から明らかな逸脱が起きている。

 パナマ文書には、日本を代表するメガバンクの名が英文で書かれている。タックスヘイブンで税金逃れを手伝っている疑いがある。事実だったらとんでもないことだが、菅官房長官の反応には仰天した。

「文書の詳細は承知していない。日本企業への影響も含め、軽はずみなコメントは控えたい」。政府が率先して調査すべき問題ではないのか。

「タックスヘイブン――逃げてゆく税金」(岩波新書)の著者、故・志賀櫻氏は、「タックスヘイブンは金融危機と無関係ではない」と筆者に次のように力説した。

10兆ドルともされる隠匿資金は決して眠ってはいない。儲け口を求め世界を駆け巡り、ある時は通貨、またある時は株式に流れ込み、マネー奔流が市場を不安定にする。バブルをかき立てるのは国境を超える投機資金です」

 投機資金の暴走を抑えるため、金融機関には様々な規制が設けられている。それでは商売にならないと業者の要請を受け、サッチャー以後「規制緩和」が金融ビジネスを全開にした。合言葉は自己責任。タックスヘイブンは新自由主義経済が産んだブラックホールでもある。

 投機資金の暴走が招いた典型がリーマンショックだった。加担した銀行・証券は壊滅的打撃を受けたが、自己責任を果たせなかった。公的資金が注入され救済されたのである。

大金持ちは税金を免れ、銀行はタックスヘイブンを利用してカネを呼び込む。隠匿された投機資金が暴走しても銀行は救われる。投入されるのは納税者のカネだ。負担はいつも中・低所得者。これでは世の中おかしくなる。

元財務官僚として国際租税の歪みと戦ってきた志賀は昨年末、急逝した。著作の末尾に書かれた一節をここに記す。

「タックスヘイブンは、富裕層や大企業が課税から逃れて負担すべき税金を負担しないことに使われ、犯罪の収益やテロ資金の移送に使われ、巨額の投機マネーが繰り広げる狂騒の舞台にも使われている。その結果、一般の善良かつ誠実な納税者は、無用で余分な税負担を強いられ、犯罪やテロの被害者になり、挙句の果てにはマネーゲームの引き起こす損失や破たんのツケまで支払わされている」

政治は誰が動かしているのか。パナマ文書は民主主義の在り方を問うている。

                                         続く

 

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