「ベーシックインカム」の具体化への動き

 

「ベーシックインカム」の具体化への動き

 

1.はじめに

 最近、西ヨーロッパの各国においてベーシックインカムを導入すべきとの声が高まっていることはご承知のとおりであろう。ベーシックインカムとは、その国のすべての成人に対して何らかの水準の給付を一律に、無条件に支給しようという制度であり、給付の方法、給付の水準、ファイナンスの方法、などをめぐってさまざまな違いはあるものの、多くの経済学者が検討に値するものとして注目している。

 さて、このようなベーシックインカムは、社会保障の用語で言うところの「ユニバーサル=普遍給付」の最たるものであろう。しかし、ベーシックインカムが実現したとしても、それは国民国家、特に裕福な上に社会権の思想がある程度共有されている先進諸国家(すなわち西欧であり、アメリカは違う)において「正当な」社会の成員であると認められている人間に対してのみ与えられる権利である。その意味ではベーシックインカムは決して「ユニバーサル=全世界的」ではない。

 ご承知の通り、スイスで6月5日、国民に一定額の現金を無条件に給付する「ベーシックインカム」制度の導入の是非を問う国民投票が行われ、賛成23・1%、反対76・9%で否決されました。投票率は46・3%だったようです。

 導入推進派は最低限必要な10万人を超える署名を集め国民投票にこぎつけた。推進派は「貧困撲滅」などを訴え、最低限の生活を維持するための金額として、成人に対して2,500スイスフラン(約27万円)、未成年者に625スイスフラン(約6万8千円)を毎月支給することを提案した。

 一方、連邦政府は「年間2,080億スイスフラン(約22兆7千億円)超」の巨額の費用と、スイスの経済競争力の低下を懸念し、反対の立場を表明。推進派は、財源について、現行の社会福祉制度の切り替えなどで可能だと主張したが、支持は広がらなかった。

 それにさかのぼること数週間前、市民のためのベーシックインカム推進派は、人々が投票に行くわずか数週間前に、キャンペーンでギネス世界記録を樹立しています。グループは日曜日に、ジュネーブのプレーヌ・デ・プランパレで8,115.53平方メートルのポスターを打ち出しました。 これは、7トンの合計の重さで、活字では次のように質問しています:「あなたの所得が保障されるとしたらあなたならどうしますか?」と・・・。

 

 そこで、スイスでの具体例で、ベーシックインカムの、メリット、デイメリット等を考えてみましょう。

推進派の提案理由は、ベーシックインカムが、予見性の高い安心なセーフティーネットであること、行政の裁量を減らして効率を高めるシンプルな仕組みであること、受給が恥ずかしくない再分配であること、ミスや漏れが起こりにくい公平な仕組みであること、など多数あるようだ。このほかベーシックインカムの推進派は、スイスで行われてる仕事の半分は、コミュニティでの家事とケアのように、未払いであると言っていたようです。そのような所得が、このような仕事が「もっと評価される」ようになるのに役立つだろうと述べていました。

  一方、スイスでの反対派の理由はといえば、 まず、(1)政府は財源不足を主な反対理由に挙げました。次に、(2)経済界は勤労意欲が失われる懸念を挙げました。そして、(3)労働組合は想定する支給額では収入が減る年金受給者がいることを理由に反対したという。いずれも、なるほどという理由ではあります。

 次に支給金額のレベルについては、スイスで検討されたベーシックインカムでは、実施の場合、金額は改めて検討されることになっていたが、賛成派は大人に対して毎月2500スイスフラン(日本円で27万5000円)の支給を提案していたという。ちなみに、子供は大人の4分の1の625スイスフランだという。これについて推進派は、付加価値税の引き上げか、金融取引税の導入で財源は補えると、十分な実現性があることを主張したようです。

 ベーシックインカムの背景にある思想の中には、「尊厳ある生活の権利」といった理想が含まれているし、また制度を魅力的なものに見せるためには、ぎりぎり暮らせるという以上の水準を提示することが必要だったのかもしれませんが、追加の財源が必要だということは、月2500フランというのは金額として大きすぎたのではないでしょうか。参考までに、報道によればスイスでは食品スーパーの初任給は4000フランくらいだという。

 この金のかかる政策に資金を提供する計画は何も無く、確かに、この政策を支持する議会政党は何も現れなかったようで、それが投票率の低さの1つだったのかもしれません。国民投票に大きな影響を与えたと思われる重要な問題の一つは、新しいポリシーが、すべての28のEU加盟国を持つ人々の自由な移動へのスイスの協定に起因する大規模な移民を引き起こす可能性があると右翼のスイス国民党(SVP)が主張した見解でした。

 「スイスが、ベーシックインカムの実行の国になることは、理論的に可能でしょう。既存の社会の支払いを削減し、代わりにすべての個人に一定の金額を支払うことができます。しかし、開かれた国境では、それは完全に不可能だといえます。もしすべての個人にスイスの通貨を与えるとしたら、スイスに移動しようとする多数の移民を抱えることになるでしょう。」とSVPの広報担当者ルイス・スタムはBBCに語ったそうです。

 いずれにしても、支給金額のレベルや財源確保や既存の福祉制度等との整合性等について、選挙民にもっと具体的な説明が必要だったのかもしれません。

 

2.スイスに続く、フィンランド等での本格的な「ベーシックインカム」の試行等の動き

  昨年の年末に、フィンランドが国民全員に非課税で1カ月800ユーロ(約11万円)のベーシックインカムを支給する方向で最終調整作業に入ったことが判った。といった電子記事が、世界中を駆け巡った。ベーシックインカム支給に要する総予算は522億ユーロ(約7兆円)にも及ぶこととなるが、ベーシックインカム支給と共に、政府による他の全ての社会福祉支給が停止となる予定ともなっており、政府は複雑化した社会福祉制度をベーシックインカムに一本化することにより、間接的な費用の支出を抑えることもできることとなる。というというものでしたが、これはどうやら誤報のようでした。

 英字紙の記者が、情報源のフィンランドの地方紙の記事を読んだ際に、フィンランド語の知識が十分ではなく誤解してしまったもののようです。他の英字紙も、情報の真偽を確かめることなく追随し、日本メディアもそれに続きました。と訂正してくださったのが、http://blogos.com/article/151914/ での山森亮(やまもり・とおる):(ベーシックインカム世界ネットワーク(http://www.basicincome.org )理事。同志社大学教授。)でした。おかげさまで誤報を引用しなくて済みました。

 真実は、フィンランドでは、昨年4月に行われた総選挙で、野党だった中央党が躍進し、連立政権の中核となり、同党のユハ・シピラが首相となりました。ベーシックインカムの「給付実験」を行うことは同党の選挙公約で、シピラ首相もベーシックインカムに賛成しており、政権発足後、実験の実施に向けた準備が進んでいます。10月には、実験をどのように行うかについての調査グループが発足し、来年春には調査グループによる政府の関係省庁や機関へのブリーフィングが行われ、来年後半には最終報告書が出される予定です。調査グループの発足について、実験の実施をめぐる様々なアイデアや情報について、フィンランドで報道がなされており、そのうちの一つを、件の英字紙記者は誤読したようなのです。 政府が普遍的ベーシックインカムのパイロットプロジェクトを実施することを決定した場合、フィンランドで約1万人がすぐに毎月€550受け取ることができます。調査グループは、2017年に2年間、失業手当や食品、個人衛生、衣服をカバーする福祉の給付に相当する免税の支給を開始することを、政府に助言しているようで、支給金額は、先に漏れていた毎月£800から、550ポンドと少なくなり、これはフィンランドの社会保障ネットの一部に取って代わるものとなるようです。政府は国家の支出を減らすためのより広い努力の一環として、スキームを進めるかどうかを今年内に決定するようです。

 

西欧諸国の間では、オランダもベーシックインカム制度導入のための試験制度を来年から導入することを既に、決定しているようです。

オランダの中部の都市ユトレヒト(人口23万人)は、すでに福祉給付を受けている住民にお金を支給する、2年間の試行するようです。

 

EU全体の意見のドイツの世論調査ダリアリサーチが行ったより広い研究の一部として行われた新しい世論調査では、英国民の大多数は、いわゆるユニバーサルベーシック・インカムの導入をサポートしていることを示唆しています。電話で、EU全体で1万人のサンプルを意向調査しました。彼らは 「彼らが働いているかどうかや他のソースのすべての所得に関係なくすべての個人に政府が支払う所得」についてどう考えるかを回答者に尋ねました。その所得は、「他の社会保障費に代わるもので、すべての基本的なニーズをカバーするのに十分な金額」と説明したところ、イギリスでの回答者の62%が、そのような政策を支持するだろうと述べました。 英国のサポートは、64パーセントのEU平均よりわずかに低く、コンセプトのための最高のサポートは、回答者の71パーセントがそのような措置をサポートすると述べたスペインだったようです。

 

 

3ベーシック・インカム地球ネットワーク地球ネットワークBIEN

ベーシック・インカム地球ネットワーク(BIEN)は、個人とまたはベーシックインカムに興味グループ間のリンクとして機能し、ヨーロッパ全土でこのトピックに関する情報の議論を促進するように1986年に設立されました。

積極的にこの議論を促進するために、BIENは、関連するイベントや出版物の最新アップと包括的な国際概要を提供し、ニュースレターを発行しています。 これは、20以上の国からの人々は、このような失業、欧州統合、貧困、開発、仕事の変化パターンとして、テーマの広いスペクトルに関連したベーシックインカムおよび関連する提案を報告し、仕事と家庭生活と社会正​​義の原則を議論するために年間2回のBIEN-会議を開催します。組織の役職員には、日本からも先にご紹介した山森教授ほか1名が参加しています。

 BIENは、それが個人やグループにコミットまたはベーシックインカムに興味の間のリンクとして機能する国際的なネットワークであり、世界中で話題の情報に基づいた議論を促進するために、2004年にヨーロッパから全世界にその活動範囲を拡大しました。 

 そのサイトでは、ベーシックインカムに関する、世界中の動向の情報や、研究報告等が紹介されています。

 

4.おわりの中締め;

税制も含めて、各種の再分配を伴う制度は、そこに関わる人々の仕事を作り出す必要性のためか、年を追うごとに複雑化する傾向がある。これに歯止めをかけることがまずは重要なのだが、それを実現することは、政治的にも、行政的にも、大変困難が大きい。既得権的な既存の制度と入れ替えるとした場合の、不利益変更等もありうる。

 

 さて、スイスの国民投票でも、ベーシックインカムの長所として、行政の効率化が訴えられていたが、問題は効率化される側の抵抗だ。

 例えば、年金がベーシックインカムに置き換わると、年金に関連する役所や役所の外郭団体の人員は、大いに削減可能だ。しかし、そこで不要とされた人が、潔く引退して、ベーシックインカムをもらうことで満足する、というようなことは考えにくい。権限やOBの就職先が減ることに対して、直接・間接両方の方法で陰に陽に抵抗するだろう。このときの抵抗する側の真剣さと、そもそも日本の社会システムの枢要な部分が政治家やビジネスマンによってではなく、官僚によって動かされていることを思うと、ベーシックインカムが短期間で実現に向けて動き出すとは想像しにくい。

 

 そのためには、現行の社会保障関連の仕組みと行政システムを徐々に簡素化して、少しずつ「ベーシックインカム的」な社会保障制度等の仕組みや仕事のやり方を増やしていく方法がいいのではないだろうか。といった方法論的な提言をする人が徐々に増えてきております。その意味で、先進国の中で、地域的(自治体等)な試行が狼煙を上げ始めているのも、現実的な対応と思われます。その成否を見守るだけでなく、我が国でも、先の大阪の「維新の党」のような改革等の動きが具体化を帯びてほしいものです。これからも、主要国の動向は追跡して、報告しますので・・・お楽しみに・・・

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