デジタル経済の課税をめぐる動向(税を考える週間第2弾)

デジタル経済と課税

   これまでの国際課税ルールでは国内に工場や支店など恒久的施設がない限り、外国企業の売り上げや利益には課税できないのが原則だった。インターネットを通じて国境を越えて利益を上げる大手IT企業にどう課税するかは国際的な課題となっていました。

デジタル課税の強化を巡り、G20やOECD、EUなどで様々な枠組みで議論が進んでいます。しかしG20では国内に複数の巨大IT企業を抱える米国が反対の姿勢を貫くほか、アリババ集団や騰訊控股(テンセント)など急成長する新興企業を持つ中国も反発を強めています。

 

EUではフランスなど主要国が議論を先導し、20年1月のルール化を目指して原案を策定済みのようだ。しかし、アイルランドやルクセンブルクなど低税率でIT企業を誘致している国が反対に回り、予定通りの進展は難しい情勢となっている。

ハモンド財務相は「(議論の)進展は痛々しいほど遅い」と述べ、10月29日、19年度予算案の演説で明らかにした2020年4月の新税導入により年4億ポンド(約570億円)以上の税収を確保できるとしている。財務相は「英国でのビジネスで収益を上げているグローバルな巨大企業が公正な負担を支払うのは当然だ」と強調し、英国がデジタル課税の先行導入に踏み切るのは国際的な議論に一石を投じる狙いもあると強調した。新税制はG20やOECDが国際ルールをまとめるまでの暫定措置と説明している。G20での議論停滞にしびれを切らしたインドはネット広告を販売する企業向けの独自の課税策を打ち出していた。英国が先進国で初めて導入に踏み切れば、デジタル課税のルールに関する国際的な議論が再び活発になる可能性がある。

 

これらの動きの情報を集めている中で、非常によくまとめられた国立国会図書館の報告書を発見したのでここにご紹介します。

ネットを通じて世界の利用者に直接サービスを提供するGAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン・ドット・コム)などの存在だ。莫大な利益を稼ぐが現地拠点がほとんどなく、利用者が住む国の課税が困難だ。こうしたIT大手が租税回避地を使う極端な節税策をとったことも問題を根深くしました。た。

G20とOECDは12年、国際課税の共通ルール作りに着手。15年に租税回避地の悪用防止などに120カ国以上が参加する枠組みができた。デジタル課税問題は合意できず、20年までに結論を出す「宿題」となっています。

OECDのパスカル・サンタマン租税政策・税務行政センター局長は、「我々の目標は(19年6月の)福岡(のG20財務相・中央銀行総裁会議)で政治的合意を得ることだ。議長国である日本に特別な役割が期待される。意見の違いを埋める橋渡し役となってほしい」と日経のインタビューで答えています。

安易な先行課税等は二重課税のリスクを高めるといった批判が多く見られることから、国際協調による中長期的な解決策が望まれるものの、国際課税ルールの抜本的な見直しにつながる可能性から、その合意は容易ではないと見られています。その結果、国際的な合意が形成されないまま一方的措置が各国に拡大することが懸念されています。世界経済のけん引役でもあるデジタル取引の足枷となるような税制にだけは発展してほしくはありませんよねー。今壊れつつある国益優先や分裂とは真逆の、世界経済、人類ファーストの観点での、利害のきめ細かな調整が必要な問題でもあり、それこそ日本のお得意芸であるような気がするのですが、OECDのサンタマン局長の期待にも何とか答えてほしいと願っています。

 

 

出典:http://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_11117772_po_IB1010.pdf?contentNo=1

  国会図書館 調査と情報―ISSUE BRIEF第1010号(2018. 7.19)

デジタル経済の課税をめぐる動向

国立国会図書館 調査及び立法考査局財政金融課 佐藤良(さとうりょう)

  • 情報通信技術の利活用によって生み出される経済形態は「デジタル経済」と呼ばれる。デジタル経済の進展は、従来の国際課税ルールに課題を突き付けていると指摘されている。
  • 現在、OECD やEU を中心として、デジタル経済に対応した国際課税ルールの在り方をめぐる国際的な議論が行われている。一方、国際的な議論の決着を待たずに、各国で、デジタル経済に対応する観点から独自の措置(一方的措置)を導入する動きが広がっている。
  • 本稿では、OECD やEU における議論を整理するとともに、各国で導入された一方的措置の概要を紹介する。

           目 次

はじめに

Ⅰ OECD による対応

   1 BEPS プロジェクト最終報告書

   2 デジタル経済に関する中間報告書

Ⅱ EU による対応

   1 経緯

   2 EU 案

Ⅲ 各国で導入されたデジタル経済に関連する一方的措置

   1 概要

   2 英国

   3 イタリア

   4 フランス

   5 米国

おわりに

 

はじめに

情報通信技術の利活用によって生み出される経済形態は「デジタル経済」と呼ばれ、その進展が従来の国際課税ルールに課題を突き付けていると指摘されている1。現在、OECD やEU を中心として、デジタル経済に対応した国際課税ルールの在り方をめぐる国際的な議論が行われている(第Ⅰ章及び第Ⅱ章参照)2。これらの議論では、デジタル経済における課税権の帰属・配分方法が論点になっている。その論点は、①恒久的施設(Permanent Establishment: PE)の在り方、②PE に帰属される利得の配分方法、の2 点に大別される。

①のPE とは、事業を行う一定の場所(支店や工場等)をいい、基本的に物理的拠点を意味する。従来の国際課税ルールでは、外国法人がPE を源泉地国(市場国)3に有する場合に、当該市場国がその事業利得に課税できるという考え方(PE なければ課税なし)が採られてきた。しかし、デジタル経済の下で電子商取引等が発達した結果、多国籍企業が市場国で事業を展開するに当たって、物理的拠点を設ける必要性が低下している。こうした状況の変化に対応し、適正な課税を行う観点から、PE の在り方を見直すべきであるとの議論が起こっている。

②について、従来の国際課税ルールでは、独立企業原則に基づき、PE に帰属する利得が決定されてきた4。PE と本店等との取引は内部取引であることから、取引価格(移転価格)を操作して、軽課税国又は無税国に利得を集中させるという租税回避行為が発生し得る。こうした行為に対処するために、独立企業原則では、PE が独立企業として、本店や第三者との間で、通常の取引価格(独立企業間価格)で取引したとみなして、PE に帰属する利得が算定される5。また、同原則に基づきPE に帰属する利得が算定される際には、PE の果たす機能(配置される人員等)、使用する資産、引き受けるリスク等の各要素が、関連取引を通じた利得の稼得にどの程度貢献しているかが分析・評価される。

 

* 本稿におけるインターネット情報の最終アクセス日は、2018 年7 月4 日である。

1 OECD, “Tax Challenges Arising from Digitalisation – Interim Report 2018: Inclusive Framework on BEPS,” 2018,pp.17-20, 165-175. <http://dx.doi.org/10.1787/9789264293083-en> なお、本テーマ全般に関する文献として、吉村政穂「経済の電子化と租税制度―ヨーロッパの焦燥―」『ジュリスト』1516 号, 2018.3, pp.38-43; 森信茂樹「デジタル経済の進展に税制でどのように対応すべきか」『金融財政事情』69(16), 2018.4.23, pp.26-29; 青山慶二「デジタル経済の課税に関する国際動向」『租税研究』823 号, 2018.5, pp.397-405 等を参照した。

2 OECD では1990 年代後半から電子商取引の課税上の問題について議論が開始されているが(渡辺智之『インターネットと課税システム』2001, 東洋経済新報社, pp.169-183.)、本稿では近年の動向のみ紹介する。

3 一般に、国際取引から生ずる所得への課税には、居住地管轄と源泉地管轄に基づく課税の2 つがある。前者では、所得を稼得する者に対する人的なつながりを根拠とし、多くの国では、所得の源泉地を問わず、全世界所得に対して課税する。後者では、所得を生み出す活動との物的な関係性を根拠とし、自国で生み出された所得(国内源泉所得)に対して課税する。前者の課税を行う国を「居住地国」、後者の課税を行う国を「源泉地国」と呼ぶ。2 つの管轄による課税が競合して、二重課税が発生することを回避するために、国内法や租税条約(後掲注(18)を参照)によって調整が行われる。(増井良啓・宮崎裕子『国際租税法 第3 版』東京大学出版会, 2015, pp.6-7.)

4 独立企業原則の説明については、OECD, op.cit.(1), pp.168-169; 金子宏ほか編『税務百科大辞典』(第4 巻)ぎょうせい, 1981, pp.62-63; 岩﨑政明・平野嘉秋共編『税法用語辞典 9 訂版』大蔵財務協会, 2016, p.781 等を参照。

5 なお、法人が国外関連者(外国子会社等)との間で、独立企業間価格と異なる価格で取引を行う場合に、当該取引が独立企業間価格で行われたものとみなし、法人所得を計算して課税する制度として「移転価格税制」がある。同税制は、我が国を始め、各国で導入されている。

 

昨今のデジタル経済では、財・サービスを生産する企業のみが価値創造を行うのではなく、ユーザーもインターネット上の活動を通じて価値創造に寄与するビジネスモデルが普及している6。また、これらの活動を記録したビッグデータを始め、価値創造における無形資産の重要性が高まっている一方、多国籍企業はグローバルな事業体制の中で無形資産の法的所有権を軽課税国又は無税国に容易に移転することができる。こうした事態に対して、現行制度は、供給者側の要素のみを分析・評価の対象とし、ユーザーの価値創造への寄与等、需要者側の要素を考慮しないこと、無形資産の一括移転に対して有効に機能していないこと等が課題として指摘されており7、その対応が求められている。

デジタル経済の課税をめぐる議論の背景には、Google、Apple、Facebook、Amazon といったIT 系多国籍企業の実質的な法人税負担率が低いとの問題意識がある。例えば、欧州委員会は、IT 系多国籍企業の同負担率が従来型ビジネスモデルの多国籍企業と比べて半分程度にとどまると指摘し、その理由として、価値創造を無形資産に依存するビジネスモデルの採用、各国の税制優遇措置の活用、積極的なタックスプランニング(節税戦略)の実施を挙げている。そして、欧州委員会は、IT 系多国籍企業と従来型ビジネスモデルの多国籍企業との間で競争条件の公平性(level playing field)が確保されていないことを問題視している。8

現在、デジタル経済に対応した国際課税ルールの在り方をめぐって、国際的な議論が進められる一方、その決着を待たずに、各国でデジタル経済に対応する観点から、一方的措置(unilateral measure)と呼ばれる独自の措置を導入する動きが広がっている。

本稿では、OECD とEU における議論を整理する(第Ⅰ章及び第Ⅱ章)とともに、各国における一方的措置の概要を紹介する(第Ⅲ章)。

 

OECD による対応

1 BEPS プロジェクト最終報告書

多国籍企業が国際的な税制の間隙を突いて税負担を軽減・回避する行動やそれに起因する問題は「税源浸食と利益移転(Base Erosion and Profit Shifting: BEPS)」と呼ばれる。2008 年9月のリーマン・ショック以降、世界各国が財政状況を悪化させ、より多くの国民負担を求める中で、BEPS への対応を求める声が高まった。これを受けて、OECD は2012 年6 月に「BEPSプロジェクト」を立ち上げ、G20 と共同してBEPS への対応策について議論を進め、2015 年10

月に最終報告書(以下「BEPS プロジェクト最終報告書」)を公表した9。同報告書では、多国籍企業は価値創造が行われた場所で税を支払うべきであるとの原則が示され、行動1~15 に分けてBEPS への対応策が勧告された。

 

6 具体例としてGoogle やFacebook が提供するオンライン広告等が挙げられる。なお、ユーザーがオンラインプラットフォーム上での活動を通じて経済的価値を創出する事業形態は「多面的(multi-sided)なビジネスモデル」とも呼ばれる(OECD, op.cit.(1), pp.18, 26-32.)。

7 鈴木一水「第7 章 電子商取引課税」『日税研論集』73 号, 2018.3, pp.152-155; 居波邦泰『国際的な課税権の確保と税源浸食への対応―国際的二重非課税に係る国際課税原則の再考―』中央経済社, 2014, p.283 等。なお、デジタル

経済の下、ビジネスモデルが複雑化していること等を背景に、無形資産の取引を独立企業(PE や本店等)の単位で分析・評価する方法が困難になりつつあるとの指摘も見られる(伊藤公哉「第4 次産業革命後を見据えた国際課税の方向性―企業所得源泉の探求とAI(人工知能)という新たな無形資産への対応―」『税研』33(6), 2018.3, pp.32-35.)。

8 実質的な法人税負担率(平均実効税率)は、伝統的なビジネスモデルの多国籍企業が23.2%であるのに対し、IT 系多国籍企業(B2C ビジネスモデル)が10.1%、同(B2B ビジネスモデル)が8.9%とされる(European Commission,“A Fair and Efficient Tax System in the European Union for the Digital Single Market,” COM(2017) 547 final,2017.9.21, p.6. https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/PDF/?uri=CELEX:52017DC0547&from=EN)。なお、B2C は企業・消費者間の商取引、B2B は企業間の商取引をいう(以下、同様)。

9 “BEPS 2015 Final Reports.” OECD HP <http://www.oecd.org/ctp/beps-2015-final-reports.htm>

 

 

このうち、行動1 にデジタル経済の課税上の課題への対応をめぐる議論の結果がまとめられた10。議論は、デジタル経済が進展する中で、従来の国際課税ルールによって適切な課税権の帰属・配分を実現できるかとの問題意識の下、①デジタル経済におけるBEPS の問題、②デジタル経済の進展に起因するより広範な課税上の問題に分けて行われた11。

①については、デジタル経済のみを対象とする対応策の勧告は見送られ、他のBEPS への対応策12がデジタル経済に関連するBEPS に対しても有効に機能することを期待するという方向性で合意がなされた13。この結論に対しては、経済全体がデジタル化の影響を受ける中でデジタル経済だけを切り離して個別にルールを規定することや、国際課税ルールの抜本的な見直しについて国際的な合意を得ることは困難であるとの共通認識を背景に、保守的かつ包括的な合

意にとどまったと指摘されている14。

②については、企業が市場国で事業を展開するに当たって一切の物理的拠点を有しない等、新たなビジネスモデルによって発生する利得に対して、どのように適正な課税を行うかが検討された。具体的には、直接税における新たな課税方式として、a) 重要な経済的拠点(significant economic presence)の概念に基づく新たな課税拠点15、b) 電子商取引に対する源泉徴収16、c) 均衡税(equalisation levy)17、の3 つの選択肢が検討された。これらの選択肢については勧告されなかったものの、各国が既存の租税条約18を尊重することを条件にBEPS に対する追加的な

10 OECD, “Addressing the Tax Challenges of the Digital Economy, Action 1 – 2015 Final Report,” 2015. http://dx.doi.org/10.1787/9789264241046-en 行動1 の概要については、浅川雅嗣「BEPS プロジェクトの軌跡と展望」『会計・監査ジャーナル』28(4), 2016.4, pp.56-60; 21 世紀政策研究所・経団連経済基盤本部編著『BEPS Q&A』経団連出版,2016, pp.66-75; 鈴木 前掲注(7), pp.147-171 等を参照。

11 BEPS プロジェクト最終報告書では、①と②の問題について直接税と間接税に分けて対応策が議論されているが、ここでは直接税の議論のみを取り上げている。間接税については、国境を越えた取引に対する消費課税は消費地で行うべきであるとの原則が示され、OECD によるガイドラインを適用することが勧告された。

12 具体的には、行動3「外国子会社合算税制の強化」(軽課税国等に設立された外国子会社を用いた租税回避を防止するために、外国子会社合算税制の制度設計を勧告)、行動7「PE 認定の人為的回避の防止」(PE の認定を人為的に回避し、税負担の軽減を図る行為に対処するため、OECD モデル条約上のPE 定義の見直しを勧告)、行動8~10「移転価格税制と価値創造の一致」(価値創造された場所に利益が計上され、課税されるように、OECD 移転価格ガイドラインの整備を勧告)等の対応策によって、デジタル経済に関連するBEPS に対処可能とされている。

例えば、行動7 では、多国籍企業によるPE 認定の人為的回避(具体的には、PE 認定を回避するために、代理人PEの要件に該当しない販売委託契約を行う、製品の保管・引渡し業務のみを行う場所を設ける等)への対抗措置によって、源泉地国(市場国)における課税権の回復が期待されている。(鈴木 前掲注(7), pp.163-165.)

13 吉村 前掲注(1), p.39; 浅川 前掲注(10), p.58.

14 青山 前掲注(1), p.399.

15 市場国の経済と意図的かつ持続的なつながりを示す要素(ローカルのドメイン名、収集されたデータ量等)があり、一定の売上額を計上する場合、重要な経済的拠点を有するとみなし、当該市場国に帰属する事業利得への課税を認める方法。

16 国内消費者が電子商取引を通じて国外事業者から財・サービスを購入する場合に、対価の支払に際して源泉徴収を行い、国外事業者に課税する方法。a) の補完的手段として位置付けられる。

17 国内事業者が課税され、国外事業者が課税されない不公平の是正を目的として、国外事業者が国内消費者に対して供給する財・サービスの総価値(売上高等)に対して課税する方法。a) に基づく所得の帰属・配分が困難である場合の代替的手段として位置付けられる。同様の税について、売上高に対する課税である点に着目して「売上税(turnover tax)」、税の類型に着目して「個別消費税(excise tax)」と呼称される場合もある。本稿では、出典元の表記に応じて、これらの表現を使い分けている。

18 国際的な課税権を調整するために、2 国間で締結される租税に関する条約をいう。租税条約の主な目的として、①二重課税の排除、②脱税・租税回避行為への対応、③2 国間の投資・経済交流の促進、が挙げられる。(「租税条約の概要」財務省HP https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/international/h07.htm#a01

 

防止措置として国内法に導入するか、又は租税条約に導入することが可能とされた。なお、現在のデジタル経済をめぐるOECD やEU の議論では、本稿の冒頭で述べた論点に対応する課税方式として、これらの選択肢が議論の中心になっていると指摘されている19。

OECD は、デジタル経済の課税上の課題について、引き続き検討を行い、2018 年4 月までに中間報告書(次節を参照)を、2020 年までに最終報告書を取りまとめることになった20。

 

デジタル経済に関する中間報告書

OECD は2018 年3 月16 日に「デジタル化によって発生する課税上の課題」と題する文書(以下「中間報告書」)を公表し21、2018 年3 月19~20 日に開催されたG20 に提出した。中間報告書は、BEPS 包摂的枠組み22の参加国間で、冒頭に述べた①PE の在り方と②PE に帰属する利得の配分方法の観点から、国際課税ルールを見直すことに合意したとしている。そして、2020年に予定される最終報告書の取りまとめまでに、その解決策の合意に向けて議論を進めるとしている。中間報告書は、デジタル経済における価値創造の在り方の分析や課税に当たっての論点に関する記述が多く、見直しの具体的内容については今後の議論に委ねられている。

国際的な解決策への合意には時間を要することから、後述のEU 諸国を始め、一部の国は、デジタル経済への早急な対応のために暫定措置の導入を求めている。中間報告書は、暫定措置として、デジタルサービスの提供に対して支払われる対価の総額(売上高)に個別消費税を課す方法23を議論しているものの、暫定措置の必要性や有効性については、多数の国が反対し、合意には至っていないとしている24。ただし、中間報告書は、各国が独自に暫定措置を導入する場合に、制度設計において考慮すべき事項を示している25。

OECD は2019 年に最終報告書の取りまとめに向けた作業の進捗状況を報告し、2020 年に最終報告を行う予定である。中間報告書は、今後の課題として、デジタル化されたビジネスモデルにおける価値創造の在り方の分析を深化させることと、解決策の技術的な実現可能性の検証を進めることを挙げている26。

19 Georg Kofler et al., “Taxation of the Digital Economy: “Quick Fixes” or Long-Term Solution?” European Taxation,2017.12, p.524.

https://www.ibfd.org/sites/ibfd.org/files/content/pdf/et_2017_12_e2_1.pdf

20 OECD はBEPS プロジェクト最終報告書で2020 年までにデジタル経済に関する最終報告書を提出するとしていたが、その後、G20 からの要請(2017 年3 月)を受けて2018 年4 月までに中間報告を取りまとめることになった。

21 OECD, op.cit.(1)

22 BEPS への対応策を国際協調により実施するための枠組み。2018 年5 月現在、116 の国・地域が参加している(“About the Inclusive Framework on BEPS.” OECD HP http://www.oecd.org/tax/beps/beps-about.htm)。

23 前述のBEPS プロジェクト最終報告書の新たな課税方式のうち、c) の「均衡税」に対応するものと考えられる。

個別消費税と訳出しているが、デジタル経済における法人所得課税(直接税)を補完する税として位置付けられるものである。前掲注(17)を参照。

24 OECD, op.cit.(1), p.178.

25 考慮すべき事項とは、具体的には、①既存の国際的義務(租税条約等)を遵守する、②一時的な措置である、③課税対象を限定する、④二重課税を最小化する、⑤起業者や小規模事業者への影響を最小化する、⑥コストや複雑さを最小化する、の6 項目である(OECD, op.cit.(1), pp.180-190.)。この6 項目を示したことにより、OECD が消極的ながらも暫定措置を許容したとの見方がある(安部憲明「見えないものを視る力―OECD が牽引するデジタル税制―」『ファイナンス』54(3), 2018.6, p.36.)。

26 OECD, op.cit.(1), pp.166, 173-174.

 

同報告書は、現時点では見直しの方向性をめぐって異なる意見が存在することに言及し、今後の意見調整が容易ではないことも示唆している。国際的な合意には米国の合意が必須とされるが、多くのIT 系多国籍企業を抱える米国は、当該企業が国内の雇用創出や経済成長に多大な貢献をしていることを理由に、当該企業のみを対象とする見直しに反対の姿勢を示している27。

 

EU による対応

1 経緯

EU 域内の多くの国では、IT 系多国籍企業が各国における事業で多額の利益を上げる一方、それに見合う税負担をしていないことへの不満が強いとされる28。2017 年9 月、フランス、ドイツ、イタリア、スペインの各国財務大臣は、EU 理事会29の議長国(エストニア)に共同書簡を提出し、IT 系多国籍企業がEU 域内での事業に対して最小限の税金しか納めていない状況をこれ以上容認できないとした上で、欧州委員会に各国の売上高に応じて課税する「均衡税(equalisation tax)」の導入を検討するよう求めた30。これを受けて、欧州委員会は、同月21 日にデジタル経済の課税上の課題に関する政策文書を公表した31。欧州委員会は、同文書で、中長期的には本稿の冒頭で述べた観点から、デジタル経済に対応した課税権の帰属・配分方法について国際的な解決策を得ることが望ましいとしつつ、短期的な解決策32の導入も検討するとした。

その後、2017 年10 月19 日に開催された欧州理事会33では、デジタル経済に対応した効率的かつ公平な課税システムが必要であるとの方針が確認された。その上で、欧州理事会は、経済・財務理事会に対して欧州委員会の上記政策文書について精査することを、欧州委員会に対して2018 年早期に関連法案を提出することを、それぞれ求めた34。経済・財務理事会は、2017 年12 月5 日にデジタル経済における利得の課税に関する総括文書を採択した35。同文書では、①従来の課税権の帰属・配分に関するルールの改善とともに「仮想PE(virtual PE)」36のような適切な課税拠点の導入を検討すべきであること、②問題の解決に向けてOECD 等と国際的な連携を図る必要があることが確認された。

 

27 “Secretary Mnuchin Statement on OECD’s Digital Economy Taxation Report,” 2018.3.16. U.S. Department of the Treasury

HP <https://home.treasury.gov/news/press-releases/sm0316>

28 「独自デジタル課税にカジ EU、大手の税逃れ防ぐ」『日本経済新聞』2018.3.16.

29 加盟国を代表する立法機関の1 つ。政策分野ごとに加盟国の各分野の閣僚級代表により構成される。このうち、経済・財務分野の閣僚級代表により構成される機関を「経済・財務理事会」と呼ぶ。

30 “Political Statement: Joint Initiative on the Taxation of Companies Operating in the Digital Economy.” Ministero dell’Economiae delle Finanze HP

<http://www.mef.gov.it/inevidenza/banner/170907_joint_initiative_digital_taxation.pdf> 10 か国による共同書簡(当該4 か国に加え、オーストリア、ブルガリア、ギリシャ、ポルトガル、ルーマニア、スロベニアが参加)も提出された(Sara White, “EU finance ministers agree to draft digital tax laws for IT giants,” 2017.9.18. Accountancy DailyHP

https://www.accountancylive.com/eu-finance-ministers-agree-draft-digital-tax-laws-it-giants)。

31 European Commission, op.cit.(8)

32 具体的には、①デジタル企業の売上げに対する均衡税、②デジタル取引に対する源泉徴収税、③デジタルサービス又は広告活動の提供から生じる収入に対する賦課金、の3 案が挙げられている。

33 EU 全体の政治的方針及び優先課題を決定するEU の政治的最高意思決定機関をいう。

34 European Council, “European Council meeting Conclusions,” 2017.10.19, p.8. https://www.consilium.europa.eu/media/21620/19-euco-final-conclusions-en.pdf

35 Council of the European Union, “Council conclusions on ‘Responding to the challenges of taxation of profits of the digital economy’,” 2017.11.30, pp.4-8. http://www.consilium.europa.eu/media/31933/st15175en17.pdf

36 行動1 で新たな課税方式として検討されたもののうち、a) の「重要な経済的拠点」に対応するものと見られる(第Ⅰ章1 参照)。

 

EU

(1)概要

欧州委員会は、2018 年3 月21 日、EU 域内でのデジタル事業に対して課税の公平性と経済成長への親和性を確保するための2 つの指令案(以下「EU 案」)を提案した。EU 案は、①中長期的な見直し37と②短期的な見直し38に関する2 つの指令案で構成される。

①は、加盟国における法人税制の統一的な改革案である。各加盟国にデジタルサービス事業を行う法人が支店等の物理的拠点を有しなくても、同法人の売上高やユーザー数が一定基準を超える場合に「重要なデジタル拠点(significant digital presence)」と呼ばれる課税拠点を有するとみなし、各加盟国が課税できるようにする。一定基準とは、同法人が各加盟国でa) 年間700 万ユーロ(約9 億円)39超の売上高がある、b) 年間10 万人以上のユーザー数を有する、c)年間3000 件超のビジネス契約がある、のいずれかの条件を満たす場合である。同時に、加盟国間での利得の配分方法も見直す。具体的には、利得の配分に消費時点におけるユーザーの所在地を反映させる等、デジタル経済における価値創造の在り方を踏まえたものとする。最終的には、別途検討が進められている法人課税ベースの統一案40に統合する方向性が示されている。

②は、特定のデジタルサービスの売上げに対して、ユーザーの所在する加盟国が「デジタルサービス税(Digital Services Tax: DST)」を課す案である41。DST は中長期的な見直しが実現されるまでの暫定措置として位置付けられる。年間売上高が、全世界で7.5 億ユーロ(約974億円)かつEU 域内で5000 万ユーロ(約65 億円)以上の法人が課税対象になる。税率は3%が提案されており、この場合、税収額(年間)は約50 億ユーロ(約6490 億円)と見込まれてい

る42。

(2)背景等

EU 案の背景としてまず挙げられるのが、欧州委員会が重要施策の1 つに位置付ける「デジタル単一市場」43への影響である。各国で独自の措置である一方的措置の採用が広がれば(第Ⅲ章参照)、デジタル単一市場の成長が阻害されかねないとの懸念から、

37 European Commission, “Proposal for a COUNCIL DIRECTIVE, laying down rules relating to the corporate taxation of a significant digital presence,” COM(2018) 147 final, 2018.3.21.

https://ec.europa.eu/taxation_customs/sites/taxation/files/proposal_significant_digital_presence_21032018_en.pdf

38 European Commission, “Proposal for a COUNCIL DIRECTIVE on the common system of a digital services tax on revenues resulting from the provision of certain digital services,” COM(2018) 148 final, 2018.3.21. https://ec.europa.eu/taxation_customs/sites/taxation/files/proposal_common_system_digital_services_tax_21032018_en.pdf

39 邦貨換算は全て報告省令レート(平成30 年7 月分)による。単位未満は四捨五入。(以下同様)

40 「共通連結法人税課税標準(Common Consolidated Corporate Tax Base: CCCTB)」と呼ばれる。グループ会社のEU 域内における利益を連結し、予め規定された方式によって関連する加盟国に割り当てる(その後各国の税率で課税する)という提案である。欧州委員会はCCCTB の導入について2011 年に一度提案したものの、加盟国の同意が得られず、2016 年10 月25 日に公表された「法人課税改革に関する政策パッケージ」の中で再提案している。

(European Commission, “Commission proposes major corporate tax reform for the EU,” IP/16/3471, 2016.10.25. http://europa.eu/rapid/press-release_IP-16-3471_en.htm?locale=en

41 課税対象となるデジタルサービスは、ユーザーが価値創造に参画するものに限定される。具体的には、①オンライン広告の設置、②ユーザーから収集したデータの送信、③オンラインプラットフォームの提供、といったサービスが挙げられる。デジタルコンテンツの販売自体は、DST の対象外とされる。(European Commission, op.cit.(38), pp.7-9.)

42 European Commission, “Questions and Answers on a Fair and Efficient Tax System in the EU for the Digital Single Market,” 2018.3.21. http://europa.eu/rapid/press-release_MEMO-18-2141_en.htm

43 各国における規制の障壁を取り除き、企業及び消費者が公正な競争環境や消費者保護の下で、国籍や所在地にかかわらず円滑にオンライン上での取引を行える単一市場の構築を目指すという施策。

 

同案ではEU 全体でデジタル経済への課税上の問題に取り組む必要性が強調されている。それ以外にも、デジタル事業に対する各国の法人税収を確保することや、IT 系多国籍企業と従来型ビジネスモデルの多国籍企業の間で競争条件の公平性を確保することも(「はじめに」参照)、EU 案の提案理由に挙げられている。44

EU 案は、デジタル経済への課税上の課題には世界規模での国際的な解決が望ましく、OECDと緊密に連携する必要があると述べている。ただし、そのためには多くの時間を要するため、EU 単独で案を示すに至ったとしている。その上で、EU 案は、EU の見解を先行して示すことで、今後の世界規模での国際的な議論に影響を及ぼすことも、その狙いとして挙げている。45

 

(3)今後の見通し

EU は税制について経済・財務理事会での全会一致制を採用している46。法人税率の引下げや税制優遇措置によって企業誘致を進めてきたアイルランドやルクセンブルクは、EU 案に反対の姿勢を示しており、今後、合意に向けた調整は難航すると見られている47。有志国のみでEU案を導入する可能性も指摘されている48。

 

各国で導入されたデジタル経済に関連する一方的措置

概要

冒頭で述べたとおり、各国でデジタル経済に対応する観点から、一方的措置を導入する動き広がっている。OECD の中間報告書は、デジタル経済に関連する一方的措置を、①PE の範囲拡張、②源泉徴収税(withholding tax)、③売上税、④巨大な多国籍企業を対象とする特定制度(以下「特定制度」)の4 類型に整理している49(個別事例は巻末表を参照)。これらの措置には、a) 市場国における課税ベースの保護又は拡張を目的とする、b) 課税ベースの設計に「市場」と結び付いた要素(売上高等)を盛り込んでいる、c) 現行の国際課税ルールに対する不満が背景にある、といった共通点がある。相違点としては、①と②は法人所得課税の範囲内となる措置であり、その適用に当たっては租税条約との関係整理が必要になる一方50、③と④は法人所得課税の範囲外となる措置である、といった点がある。また、③は特定のデジタルサービスを対象にするのに対し、④は多国籍企業の租税回避行為一般を対象とする制度であり、IT 系多国籍企業やその事業のみを対象にするものではない、といった違いもある。以下、中間報告書で取り上げられているものを中心に、主要国における一方的措置の概要を紹介する。

44 European Commission, op.cit.(42)

45 European Commission, op.cit.(37), p.3.

46 森信茂樹「(経済教室)巨大IT 企業と税制(上)課税へ当局の知恵 問われる」『日本経済新聞』2018.5.16.

47「欧州委、デジタル税提案」『日本経済新聞』2018.3.22.

48 森信 前掲注(46)

49 OECD, op.cit.(1), p.134. なお、BEPS プロジェクト最終報告書で検討された新たな課税方式との関連でいうと、①は「a) 重要な経済的拠点の概念に基づく新たな課税拠点」、②は「b) 電子商取引に対する源泉徴収」、③は「c)均衡税」に概ね対応する。④はいずれにも該当しないが、国内事業者と国外事業者との間における不公平を解消するという目的を有する点では、「c) 均衡税」に共通する側面があると考えられる。

50 相手国との間に租税条約が存在する場合、国内法よりも租税条約上の規定が優先される。国内法に規定された①や②の措置が相手国との取引等に適用されるのは、租税条約に同様の規定を取り込んでいるか、相手国との間に租税条約が存在しないか、いずれかの場合に限定されることになる。

 

英国

(1)迂回利益税の導入(④特定制度に相当)

英国は、2015 年4 月から「迂回利益税(Diverted Profits Tax: DPT)」を導入した51。DPT は、英国内の経済活動によって創出されながらも、同国による課税を回避していると認められる企業利益に対して課される52。DPT は、法人税とは別の税目として設けられ、法人税の基本税率(2018 年現在は19%)よりも高い税率(25%)が設定されている。

DPT の課税対象となるのは、①外国法人が人為的に英国におけるPE 認定を回避しているとみなされる場合、②英国内に課税拠点(英国内の子会社又はPE)を有する外国法人が、経済的実質のない取引又は事業体を用いて、グループ全体の税負担を不当に軽減しているとみなされる場合、である。DPT は、報道で「Google 税」と呼称される例が散見されるが53、特定の業界や事業に課税対象を限定しているわけではない。

DPT の主な目的は、新たな税負担を課すことよりも、法人税の租税回避を抑制することにあると指摘されている。すなわち、同制度は、多国籍企業がDPT の課税を回避するために、英国内で創出された利益を、英国内の法人税の課税ベースに適切に反映するように、動機付けるものとなっている。課税当局によれば、実際に多数の多国籍企業が、DPT の課税回避のために対象となる取引等の見直しを実施したか、又は実施予定であるという。54 DPT の税収額(付随して発生した法人税の増収額も含む。)は、2015 年度に3100 万ポンド(約46 億円)、2016 年度に2 億8100 万ポンド(約417 億円)である55。DPT に対しては、BEPS プロジェクトによる対応策と相互補完の関係にあるとの積極的な評価もないわけではないが、国際協調の足並みを乱す、二重課税のリスクを高める、といった批判が多くなされている56。

(2)源泉徴収税の対象範囲の見直し(②源泉徴収税に相当)

2017 年秋予算書(Autumn Budget)では、知的財産権等の使用料(ロイヤルティー)に対する源泉徴収税の対象範囲を見直す案が示された57。現状では、外国法人が英国内に課税拠点を有しない場合、同法人によるロイヤルティーの支払は、源泉徴収税の課税対象にならない。見直し後には、

51 2015 年財政法第3 部に規定される(Finance Act 2015 (c.11), Part3)。

52 制度の内容については、緒方健太郎「BEPS プロジェクト等における租税回避否認をめぐる議論」『フィナンシャル・レビュー』126 号, 2016.3, pp.221-223; 居波邦泰「国際課税 海外論文紹介 (1)英国の迂回利益税 ラウンド・ディスカッション(2)シンガポールはBEPS を切り抜けられるであろうか?」『租税研究』791 号, 2015.9, p.276 等を参照。

53 例えば、“‘Google tax’ targets multinationals that shift profits abroad,” Times, 2014.12.4 等。

54 OECD, op.cit.(1), pp.150-151.

55 “Transfer Pricing and Diverted Profits Tax statistics, to 2016/17,” p.5. GOV.UK HP

https://assets.publishing.service.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/file/635330/Transfer_Pricing_and_Diverted_Profits_Tax_statistics.pdf

56 DPT の賛否を紹介したものとして、緒方 前掲注(52), p.223 を参照。批判的評価については、日本租税研究協会『税制改革と国際課税(BEPS)への取組』(第67 回租税研究大会記録)2015, p.126 等を参照。

57 Autumn Budget 2017, HC587, November 2017, p.35. 2017 年12 月には本件の協議文書が公表された(HM Revenue and Customs, HM Treasury, “Royalties Withholding Tax – Consultation document,” 2017.12.1. https://assets.publishing.service.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/file/663889/Royalties_Withholding_Tax_-_consultation.pdf

)。なお、2017 年秋予算書と同時に「法人税とデジタル経済に関する政策方針書」が公表された。同文書は、現行の税制をデジタル経済に対応させるためには、国際協調による法人税制の見直しが望ましいものの、それが行われない場合には、売上税のような暫定措置の導入を検討する必要があるとしている。(HM Treasury,“Corporate tax and the digital economy: position paper.” https://www.gov.uk/government/consultations/corporate-tax-and-the-igital-economy-position-paper

 

外国法人が英国内で財・サービスの提供等を行い、利益を上げる一方、軽課税国又は無税国の関連者(知的財産権等の所有者)に対してロイヤルティーを支払う場合には、外国法人が英国内に課税拠点を有するか否かによらず、当該支払を源泉徴収税の課税対象とする58。

今後、当該見直し案は、2018~2019 年財政法案に盛り込まれ、2019 年4 月から施行される見通しである。見直しによる増収額は、2019 年度に2 億8500 万ポンド(約423 億円)と見込まれている59。

 

イタリア

(1)デジタル取引税の導入(③売上税に相当)

イタリアでは、2018 年予算法によってデジタル取引税(web tax)が導入された(2019 年1月施行予定)60。同税は、電磁的方法でサービスの提供が行われる場合に、課税取引の対価の額(付加価値税を除く。)に3%の税率で課される。具体的には、Google やFacebook 等によるオンライン広告やスポンサー・リンクが課税対象のサービスとして想定されている61。当該サービスの提供が事業者間で取引され(B2B)、かつ顧客(対価の支払者となる事業者)がイタリア国内に居住する場合に、同税が適用される。サービス提供者は、国内事業者、国外事業者を問わず課税対象になるが、課税取引回数が年間3,000 回以下である場合は対象外になる。デジタル取引税の徴収及び納付は、課税取引の対価を支払う国内事業者が行う。増収額は年間1 億9000 万ユーロ(約247 億円)と見込まれている62。

(2)PE の定義見直し(①PE の範囲拡張に相当)

2018 年予算法では、国内法におけるPE の定義見直しも実施された(2018 年1 月施行)。すなわち、PE の定義について、BEPS プロジェクト最終報告書の行動7「PE 認定の人為的回避の防止」の勧告に沿った見直しに加えて、物理的拠点を有しない場合でも、重要かつ継続的な経済的拠点を有するとみなされる場合にはPE を構成し得るとの規定が置かれた63。

 

フランス(③売上税に相当)

2003 年に音楽・映像コンテンツの売買・貸借等に対する個別消費税が導入された64。当初、同税の課税対象は、物理的な媒体(CD・DVD 等)に限定されていたものの、その後、徐々に拡大が図られ、2013 年には国外事業者によるオンライン上のビデオ・オンデマンド・サービス

 

58 英国がロイヤルティーの支払先の国との間に租税条約を有しない場合に限られる。徴税や報告の方法は既存の源泉徴収の仕組みが有効であると考えられているが、英国内に課税拠点を有する関連者に連帯責任を負わせることも提案されている。英国内に課税拠点を持たない多国籍企業も課税対象になり得るため、納税協力費用(コンプライアンスコスト)を増大させることが懸念されている。(“UK launches royalty withholding tax consultation,” GlobalTax Alert, 2017.12.5.

https://www.ey.com/gl/en/services/tax/international-tax/alert–uk-launches-royalty-withholding-tax-consultation

59 Autumn Budget 2017, op.cit.(57), p.29. 2020 年度以降の税収は逓減すると見込まれている(巻末表参照)。

60 La legge di bilancio per il 2018, Articolo 1, commi 1010-1019 (legge 27 dicembre 2017, n.205) 制度の概要につ

いては、OECD, op.cit.(1), p.143; “Italy enacts Web Tax and new PE definition,” Global Tax Alert, 2017.12.29.

http://www.ey.com/Publication/vwLUAssets/Italyenacts_Web_Tax_and_new_PE_definition/$FILE/2017G_07179171Gbl_Italy%20enacts%20Web%20Tax%20and%20new%20PE%20definition.pdf 等を参照。

61 “Italy pushes ahead with 3% ‘web tax’,” Financial Times, 2017.12.19.

62 OECD, op.cit.(1), pp.143-144.

63 行動1 で新たな課税方式として検討されたa) の「重要な経済的拠点」に対応するものと見られる(第Ⅰ章1 参照)。

64 Code général des impôts, Article 1609 sexdecies B

 

(Netflix 等)に、2016 年には広告収入を得て無償で提供される音楽・映像コンテンツの提供サービス(YouTube 等)にそれぞれ拡張する法改正が行われた(いずれも2017 年9 月施行)65。

同税は、課税取引の対価の額(付加価値税を除く。)に2%の税率(ポルノ又は暴力的内容は10%)で課される66。対価の額には、オンライン広告やスポンサー・リンクの表示に対して支払われる額も含まれる。フランス国内で音楽・映像コンテンツの提供が行われる場合に、課税対象になる。同税の徴収及び納付は、コンテンツを提供する事業者(国内事業者、国外事業者を問わない。)が行う。同税の税収は、フランス国立映画・映像センター(Centre national du cinéma et de l’image animée)の財源に充てられる。67

 

米国(④特定制度に相当)

2017 年12 月22 日、トランプ大統領の署名を経て成立した税制改正法68によって「税源侵食・濫用対策税(Base Erosion and Anti-abuse Tax: BEAT)」が導入された(2018 年1 月施行)69。

BEAT は、多国籍企業による関連者間取引を通じた租税回避の抑制を目的とした制度である70。

内国法人(国内PE を含む。)が国外関連者に対して、一定の税源侵食的支払(利子、ロイヤルティー、管理手数料等の支払)を行う場合に、当該内国法人に同税の課税が生じる可能性がある。具体的には、BEAT の税額は、「①調整後課税所得の10%」71と「②通常の法人税額(一定の税額控除を適用する前の額)」72の差額(①-②)で算定される。BEAT の課税対象は、過去3 年間の平均年間総収入が5 億ドル(約550 億円)を超え、かつ税源侵食割合73が3%(銀行業

の場合は2%)以上の法人74である。

BEAT の導入に伴う増収額は、連邦議会の両院合同租税委員会(Joint Committee on Taxation)の推計によると、2018~27 年の10 年間で約1496 億ドル(約16 兆円)と見込まれている75。

65 2013 年補正予算法(LOI n° 2013-1279 du 29 décembre 2013 de finances rectificative pour 2013, Article 30)、2016年補正予算法(LOI n° 2016-1918 du 29 décembre 2016 de finances rectificative pour 2016, Article 56)による。

報道では、前者の改正内容を「Netflix 税」、後者の改正内容を「YouTube 税」と呼称する例が見られる(“Les taxes YouTube et Netflix vont entrer en application,” Le Figaro, 2017.9.21.

http://www.lefigaro.fr/medias/2017/09/15/20004-20170915ARTFIG00268-validees-les-taxes-youtube-et-netflix-devraient-aider-la-creation-en-france.php)。

66 対価の額からは4%の控除が認められる。ただし、ユーザーが音楽・映像コンテンツの私的利用を目的として、コ

ミュニティ内で当該コンテンツを共有・交換する場合には、控除率は66%となる。控除後の額が10 万ユーロ(約

1300 万円)以下の場合は課税されない。

67 制度の概要等については、OECD, op.cit.(1), pp.146-147 等を参照。なお、これらの措置の導入に伴う増収見込額は、現時点では明らかにされていないという(ibid, p.147.)。

68 Tax Cuts and Jobs Act, Pub. L. No.115–97, 131 Stat. 2054

69 26 U.S.C. § 59A なお、BEAT と同時に、グローバル無形資産低課税所得(Global Intangible Low-Taxed Income: GILTI)への課税強化、外国派生無形資産所得(Foreign-Derived Intangible Income: FDII)への優遇措置も導入された。

70 制度の内容については、神山弘行「米国税制改正の国際的側面―Tax Cuts and Jobs Act の光と影―」『ジュリスト』1516 号, 2018.3, p.29; 山岸哲也ほか「国際課税 米国トランプ・共和党政権による抜本的税制改革」『租税研究』822 号, 2018.4, pp.257-315 等を参照。

71 調整後課税所得とは、通常の課税所得に税源侵食的支払を加算したものをいう。10%という割合については、2018年に開始する課税年度(導入初年度)は5%、2026 年以降に開始する課税年度は12.5%となる。

72 2026 年以降に開始する課税年度は、全ての税額控除適用後の法人税額となる。

73 「税源侵食割合=当該年度の税源侵食的支払の総額÷当該年度の損金控除総額」で算定される。

74 特別小規模会社(S 法人)、規制投資会社(RIC)、不動産投資信託(REIT)を除く法人。

75 Joint Committee on Taxation, “Estimated Budget Effects of the Conference Agreement for H.R.1, the “Tax Cuts and Jobs Act”,”JCX-67-17, 2017.12.18, p.7. https://www.jct.gov/publications.html?func=startdown&id=5053

 

BEAT の導入をめぐっては、租税回避を目的としない通常の取引でも課税対象とみなされるおそれがある等の指摘が見られる76。一方、米国によるBEAT の導入を契機に、他国にも同様の措置が広がると予想する声も聞かれる77。

 

おわりに

既に見たとおり、OECD を中心に、デジタル経済の課税上の課題に対して中長期的な解決策の合意に向けた議論が進められている。一方、EU では暫定措置を導入する提案がなされ、各国では一方的措置を国内法に導入する動きが広がる等、短期的な対応を図る動きも見られる。

暫定措置として挙げられる売上税(均衡税又は個別消費税)は、通常の法人課税が所得(income)を課税ベースとするのに対して、売上げ(gross)を課税ベースとすることから、税の累積が生じること等を理由に批判的な意見が見られる78。各国の一方的措置に対しては、英国のDPT に見られるように、積極的な評価がないわけではないが、国際協調の足並みを乱す、二重課税のリスクを高めるといった批判が多く見られる。こうした点から、国際協調による中長期的な解決策が望まれるものの、国際課税ルールの抜本的な見直しにつながる可能性から、その合意は容易ではないと見られている79。その結果、国際的な合意が形成されないまま一方的措置が各国に拡大することが懸念されている80。

我が国の対応については、EU 案の暫定措置は、米国のIT 系多国籍企業のみならず、我が国の当該企業にも影響が及ぶことから、安易な同調を避け、OECD の議論に積極的に参加することを求める意見がある81。また、各国で導入が進む一方的措置の影響を踏まえて、我が国が採るべき対応の検討を求める意見も見られる82。我が国でも、国際的な議論の動向を注視しつつ、より望ましい国際課税ルールの在り方について議論が深まることが期待される。

76 マークス・ベイヤー「トランプ減税 どう波及? WTO ルールの順守を」『日本経済新聞』2018.1.23.

77 吉村 前掲注(1), p.43.

78 例えば、土居丈朗「「デジタル課税」が巨大ネット企業を襲う日―各国がアマゾンやグーグルに翻弄されている―」

2018.4.2. https://toyokeizai.net/articles/-/214789 売上税では、仕入れにかかる税額の控除が行われないことから、複数の取引段階で売上税が課されれば、税の累積が発生しかねないと指摘されている(同)。

79 吉村 前掲注(1), p.43.

80 同上

81 森信 前掲注(46)

82 青山 前掲注(1), p.405.

巻末表 デジタル経済に関連する主な一方的措置(2018 年3 月現在)出典のサイトを参照してください。

 

                            以上

お知らせ

トピックス/コラム記事

opinion(中辛、激辛)

続き物・物語

Page Top