現代金融理論、または現代貨幣理論、以下、「MMT」の物語(入門編)

 

はじめに;

今、アメリカで大論争中の「現代貨幣理論又は現代金融理論(MMT)」をご存じだろうか。「財政は赤字が正常で黒字のほうが異常、むしろ、どんどん財政拡大すべき」という、これまでの常識を覆すような理論である。この理論にアメリカ民主党29歳の新星で、将来の女性初大統領ともいわれているオカシオコルテス下院議員が支持を表明したことで、世論を喚起する大きな話題となっている。これに対しノーベル経済学賞受賞の経済学者クルーグマン、元財務長官のサマーズ、FRBのパウエル議長、著名投資家のバフェットらがこぞって批判。日銀の黒田総裁も否定的なコメントを出している。

 

このため、クルーグマン、サマーズ、ロゴフといった影響力のある主流派経済学者、アメリカ連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長、あるいはフィンクやバフェットといった著名投資家ら、そうそうたる面々がMMTを批判している。その言葉使いも異様に激しい。クルーグマンは「支離滅裂」、サマーズは「ブードゥー経済学」、ロゴフは「ナンセンス」、フィンクにいたっては「クズ」と一蹴している。

 

MMTは、物価調整の手段として、課税以外にも、「就労保障プログラム」あるいは「最後の雇い手」と呼ばれる政策を提案している。これは、簡単に言えば、「公的部門が社会的に許容可能な最低賃金で、希望する労働者を雇用し、働く場を与える」という政策である。

 

就労保障プログラムは、不況時においては、失業者に雇用機会を与え、賃金の下落を阻止し、完全雇用を達成することができる。逆に、好況時においては、民間企業は、就労保障プログラムから労働者を採用することで、インフレ圧力を緩和する。こうして就労保障プログラムは、雇用のバッファーとして機能する。政府は、同プログラムに対する財政支出を好況時には減らし、不況時には増やすことで、景気変動を安定化させる。不況時には確かに財政赤字が拡大するが、低インフレ下では、財政赤字はもとより問題にはならない。

 

MMTは、「財政赤字の大小はインフレ率で判断すべきだ」という理論である。ハイパーインフレになっても財政赤字を心配しなくてよいなどという主張はしていない。それどころか、インフレを抑制する政策について提言している。要するに、批判者たちは、MMTを理解していないということだ。いや、そもそも、知ろうとすらしていない節すらある。なぜ、そのような態度をとるのか。それは、彼らが、MMTのことを、主流派経済学のパラダイムに属していないという理由によって、まともに取り扱うべき経済学と見なしていないからであろう。

 

物理学のパラダイムを一変させたアインシュタインが言ったように、「問題を生じさせたときと同じ考え方によっては、その問題を解決することはできない」

現下の経済問題を解決するためには、経済学のパラダイムから変えなければならないのだ。との指摘をするのが、中野 剛志氏の投稿の結びです。

 

そこで、「MMT物語」のタイトルで、MMTを分かりやすく紹介しょうとした時に入門記事として選んだのが、下記のスティーブン・ヘイル「解説:MMT(現代金融理論)とは何か」(2017年1月31日)です。

 

出典:原文:https://theconversation.com/explainer-what-is-modern-monetary-theory-72095(英文)

   和文:https://econ101.jp/スティーブン・ヘイル「解説%EF%BC%9Ammt%EF%BC%88現代金融理論/

スティーブン・ヘイル「解説:MMT(現代金融理論)とは何か」

(2017年1月31日)

2018年2月2日 by chietherabbit 6 Comments

Steven Hail, “Explainer: what is modern monetary theory” (The Conversation, 31 January 2017)1

 

オーストラリア・アデレード大学経済学部講師

スティーブン・ヘイル

 

政府支出削減を求めるという困難な選択をするときに、俗に言う『予算ブラックホール』について心配しない経済学の学派がある。バーニー・サンダーズ氏のチーフ経済アドバイザーであったステファニー・ケルトン教授のようなMMT(現代金融理論、現代貨幣理論。以下、MMT)提唱者は、オーストラリア政府は予算を均衡する必要はなく、経済を安定させる必要があると主張する。そして、彼らの主張は(今までの経済学のものとは)まったく違うものだと言う。

MMTとは、1990年代にオーストラリアのビル・ミッチェル教授和訳)とともに米国アカデミアのランドル・レイ教授、ステファニー・ケルトン教授および投資銀行家でファンドマネージャであるウォーレン・モズラー氏により経済運営の手法として開発され、ハイマン・ミンスキー、ワイン・ゴッドリー、アバ・ラーナーといった先駆的経済学者のアイディアをもとに築かれた理論だ。著名経済学者ジョン・M・ケインズの研究についてのミンスキーたちの解釈は、 1980年代には支配的になったものとは非常に異なっている。

1980年代までには、ケインズは高失業率の場合のみ財政赤字を許容することを主張する経済学者と見られるようになっていた。ラーナーは、1943年に『機能的財政と連邦政府』という論文の中で、ケインズ主義経済学者は完全雇用を維持するには必要なだけ財政赤字を発生させなければならず、この赤字は普通のこととして受け止められなければならないと述べている。1943年4月にケインズは友人で経済学者でもあるジェイムス・ミードに宛てた手紙で、ラーナーについて、「彼の議論は非の打ち所がない。しかしこれを達成するには天の助けが必要だ」と綴っている。

MMTは独自の解釈と批判を惹きつけている一方で、経済成長を復活させようとする政策担当者の努力を蔑ろにし続けている国際経済環境の中で、力を増しつつある。

 

MMTには三つのコアの主張がある。初めのふたつは以下のとおりである。

1)自国通貨を持つ国家の政府は、純粋な財政的予算制約に直面することはない。

2)すべての経済および政府は、生産と消費に関する実物的および環境上の限界がある

1番目の主張は、広く誤解されている主張だ。自国通貨を持つ国の政府とは、自国通貨と中央銀行を有しており、変動為替制度を採用し、大きな外貨債務がないという意味である。オーストラリアはそのひとつであり、英国、米国、日本も該当する。ユーロ圏の国々は自国通貨を持たないので当てはまらない。

 

2番目の主張は、政府はその気にさえなれば、消費しすぎたり課税しなさすぎたりして、インフレを起こすことが出来るという明白な事実を確認しているにすぎない。現実的な限界を迎えるとき、消費の総合的な水準が、すべての労働力、スキル、物質的な資本、技術および自然資源を投入して生産できる上限を超えているといえる。間違ったものを大量に生産したり、消費したいものを生産するために間違ったプロセスを使用することで、自然のエコシステムを破壊することも出来る。

 

オーストラリア政府は、通貨発行権を持つ中央政府である。オーストラリアドルが不足することはない。自らそう望み行動しない限りはオーストラリアドルの借用を強制されることもなく、その債務は金融制度の中で有益な役割を担う。政府は支出のために国民に税を課す必要もない。税金はインフレを制限するためにある。インフレにならないレベルの公的部門と民間部門の総支出を維持するために、課税する必要がある。

 

これは政府支出と税収がお互いに同額でなければならないという意味ではない。オーストラリアのような国ではそんなことは実際にはほとんど起こらない。そしてこれはMMTの3番目の主張に続く。

 

3)政府の赤字はその他全員の黒字である。

すべての貸し手には、必ず借り手が存在する。つまり金融制度の中では黒字と赤字は足せばいつもゼロになるということだ。

 

消費より収入のほうが多い預金者には、儲けより支出が多い個人か法人か誰かが必ずいる。もし民間部門全体としてもっと借金するよりも貯蓄をしてほしいとすれば、政府はおそらく課税するよりもっと多くを支出しなければならないだろう(他の国の経済がどうであるかによりけりであるが)。

逆もしかりだ。オーストラリアのハワード政府が、財政黒字を出し続けられたのは民間部門の負債額がとても大きかったからだ。家計負債はハワード政権時代に3倍になった。それ以降、他の2国とともに、対所得家計負債比率で世界最高となっている。

 

だから、政府はオーストラリアドル不足になることはないが、だからといって『酔っ払いの水夫』のように浪費していいとか、税金を払わなくていいという意味ではない。予算均衡は必要ないという意味だ。また、民間部門が貯蓄を増やすのを財政赤字は助ける役割も担う。

 

オーストラリア政府は、ほとんど常に財政赤字を出し続けている。これは何もショックを受けるようなものではない。連邦制になってから平均して右派政権も左派政権もともに財政赤字を出している。(もしあなたがショックをうけたのなら)国家会計を家計に例える比喩に惑わされてしまっている可能性がある。

 

遊休労働力が約15%あり(若年層で30%以上)、民間部門のバランスシートは貧弱で、グリーンおよびその他インフラ投資の必要性の増大している国では、財政再建とはひとびとの注意を逸らすものだ。政府は、完全雇用、ソーシャルインクルージョン、自然環境の回復、健全な民間部門のバランスシートを促進するために、通貨発行機関としての役割を果たすことができるし、そうするべきである。

 

MMTによれば、政治家は、必要のないこと(予算均衡)にとらわれており、国の未来にとって重要なことの多くを無視している。これがMMTというレンズを通して見たオーストラリアと世界である。MMTは、現在の金融制度が実際にどのように機能しているかを理解するためのものであり、その点において物議を醸し出すようなものではまったくない。

 

MMT提唱者であるビル・ミッチェル教授は、政府が自国通貨を持つ主権国としてその政策スペースの中にJGP(ジョブ・ギャランティ・プログラム)を導入し、失業率を2%かそれ以下にすることを訴えている。オーストラリアでこの失業率を達成していたのは1960年代と1970年代の初頭だ。JGPとは連邦政府の資金とローカル(自治体)で運営された公的職業プログラムで、完全雇用への回帰を行うべきとの提案だ。これがインフレを起こすとはミッチェル教授は考えていない。JGPは経済を安定化させインフレを抑制する枠組みとしてMMTに不可欠なものである。

 

オーストラリアでは、主要3政党はMMTにほとんど注目していない。しかし、米国ではMMT提唱者は政府に近いところに位置しており(上院議員バーニー・サンダース氏とともに)、経済問題を理解するためにMMTの採用を推奨することを目的としたふたつの小さな政党が去年設立された。なので、MMT提唱者と批判者の両方の弁を今後はもっとたくさん耳にすることになるだろう。

 

まとめと復習;

MMTのポイントの一部をごく簡単に復習しましょう。

まず、政府は、「通貨」の単位(例えば、円、ドル、ポンドなど)を決めることができる。そして、政府(と中央銀行)は、その決められた単位の通貨を発行する権限を持つ。

次に、政府は国民に対して、その通貨によって納税する義務を課す。すると、その通貨は、納税手段としての価値を持つので、取引や貯蓄の手段としても使われるようになる。

 

政府債務残高の大きさを見て財政破綻を懸念する議論は、政府の債務を、家計や企業の債務のようにみなす初歩的な誤解に基づいている。政府は、家計や企業と違って、自国通貨を発行して債務を返済できるのだ。したがって、政府は、財源の制約なく、いくらでも支出できる。

 

ただし、政府が支出を野放図に拡大すると、いずれ需要過剰(供給不足)となって、インフレが止まらなくなってしまう。このため、政府は、インフレがいきすぎないように、財政支出を抑制しなければならない。言い換えれば、高インフレではない限り、財政支出はいくらでも拡大できるということだ。つまり、政府の財政支出の制約となるのは、インフレ率なのである。

 

さて、国家財政に財源という制約がないということは、課税によって財源を確保する必要はないということを意味する。

MMTによれば、政府の借金を税で返済する必要すらないのだ。だが、現代貨幣理論は、無税国家が可能だと主張しているわけではない。そもそも、MMTの根幹にあるのは、通貨の価値は課税によって担保されているという議論だ。また、もし一切の課税を廃止すると、需要過剰になって、インフレが昂進してしまうであろう。そこで、高インフレを抑制するために、課税が必要となる。また、格差是正のための累進所得税、あるいは地球温暖化対策のための炭素税など、政策誘導のためにも課税は有効である。要するに、課税は、財源確保の手段ではなく、物価調整や資源再配分の手段なのである。

 

さらに言えば、現代貨幣理論は、物価調整の手段として、課税以外にも、「就労保障プログラム」あるいは「最後の雇い手」と呼ばれる政策を提案している。これは、簡単に言えば、「公的部門が社会的に許容可能な最低賃金で、希望する労働者を雇用し、働く場を与える」という政策である。

 

就労保障プログラムは、不況時においては、失業者に雇用機会を与え、賃金の下落を阻止し、完全雇用を達成することができる。逆に、好況時においては、民間企業は、就労保障プログラムから労働者を採用することで、インフレ圧力を緩和する。こうして就労保障プログラムは、雇用のバッファーとして機能する。政府は、同プログラムに対する財政支出を好況時には減らし、不況時には増やすことで、景気変動を安定化させる。不況時には確かに財政赤字が拡大するが、低インフレ下では、財政赤字はもとより問題にはならない。こうして、就労保障プログラムは、物価を安定させつつ、完全雇用を可能にするのである。

 

という具合に、何とも財政の赤字国家にとって都合の良い理論であるようだが、今回の記事の投稿者のスティーブン・ヘイル講師が予想した通り、ノーベル賞受賞者の正統派に属するポールKrugman クルーグマン教授と民主党の民主党のチーフエコノミストの一人であるステファニー・ケルトン女史の公開での論争等を次にご紹介することとしています。

                                               続く

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