ロンドンG7財務相会合の合意で国際課税のルール作りをめぐる大きな第一歩

はじめに;

ご案内の通り、国際課税のルール作りをめぐっては、米国のIT大手がターゲットとなることを嫌ったトランプ前米政権が協議から離脱したことで停滞していました。

現行の国際ルールでは国内に支店や工場などの物理的な拠点がない外国企業には原則として課税することができない。ソフトウエアなどの無形資産を強みとするIT大手の間では、低税率国や租税回避地(タックスヘイブン)に拠点を置きながらインターネットを通じてグローバルに事業を展開することで課税を逃れる手法が広がっている。特に各国の税務当局をいらだたせてきたのが、独占や寡占による超過利潤を得ながら、複雑な節税スキームを駆使して課税を回避してきたグーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン・ドット・コムの米IT大手4社だ。世界の主要約5万7000社の2018~20年の財務データをQUICK・ファクトセットで分析したところ、4社の税負担率は平均約15%で、世界全体の平均(約25%)の6割の水準にとどまっていました。多国籍企業が、税負担を最小にする選択をすること自体、許されたタックスプランニングであるのでしょう。企業誘致等のための課税ルールについては、米国等においては,州間での誘致合戦が行なわれていることも確かなのです。

6月5日に閉幕したばかりの主要7か国(G7)財務相会合で、議長国のスナク英財務相が「歴史的」と自賛した今回の合意は、企業を誘致したい低税率国と、節税に余念がない米IT大手が約30年にわたって続けてきた相互依存の関係を終わらせる可能性があります。その流れを作ったのは、多国籍企業の課税逃れに目を光らせるバイデン米政権でした。国際協調を重視するバイデン政権が1月に発足し、議論が再開。当初、最低税率を21%にすることを示唆した米国が「15%を下限」とする低税率国へ歩み寄る案を示したことで合意に向けた交渉が加速したようです。

Ⅰ.共同声明の概要

今回の主要7か国(G7)財務相会合で採択された共同声明は以下の通りです。

 

  今日の歴史的な課題に対処するため、また、より深い多国間経済協力に向けた我々の新たな喫緊の取り組みの一部として、具体的な行動に合意した。

との見出しで;

 

強固で、持続可能で、均衡ある、かつ包摂的な世界経済の回復の構築(2項目)、

1.パンデミックからの強固で、持続可能で、均衡ある、かつ包摂的な回復 

2.新型コロナウイルスのパンデミックは、あらゆる場所でそれを制御することによってのみ克服できる。

 

気候変動と生物多様性の損失に対処するための変革的な取り組み(7項目)

3.ネットゼロへのコミットメントと大きな構造変化を実施する複数年の取組にコミットと気候変動と生物多様性の損

失に関する考慮を適切に取り入れることにコミットする。

4.COP26までの国際サステナビリティ基準審議会の設立につながる最終提案に関する更なる協議を進める

5.グローバルな整合性を確保する最善のアプローチを決定するため、緊密に連携する。

6.世界中の金融機関による気候変動に対する取り組みへの継続的なコミットメントを歓迎する。

7.サステナブル・ファイナンス作業部会が、気候に当初の焦点を当てたロードマップを策定することを支持する。

8.全ての国際開発金融機関(MDBs)に対し、COP26に先立ってパリ・アラインメントの野心的な期限を設定するよう

求め、加盟国を支援するMDBsの取り組みを歓迎する

9.全ての国に対し、環境犯罪取り締まりのための金融活動作業部会(FATF)基準を完全に実施し、強化することを

求める。

 

気候変動と生物多様性の損失に対処するための変革的な取り組み(6項目)

10.最も貧しく最も脆弱な国々が新型コロナウイルスに関連した保健及び経済上の課題に対処するにあたり、支援を

行うことに引き続きコミットする

11.低所得国への支援能力を強化するため、IMFが譲許的資金及び政策の見直しを行うことを歓迎する

12.債務の脆弱性に対処し、債務者と債権者の定期的なデータ突合等を通じて債務の透明性を促進することは、

途上国の持続可能で包摂的な成長を引き出すために不可欠である

13.契約的アプローチの強化の可能性を探求するため、G7民間セクター作業部会の設立を歓迎する。

14.HIPCイニシアチブの完了時点に到達した際に、スーダンに対して包括的な債務救済を提供することにコミットし、

他の債権者も同様の行動をとるよう奨励する。

15.MDBsの資金を効率的かつ効果的に利用できるよう、国際開発協会(IDA)に対して、持続可能な方法でIDA国

への追加資金を引き出すためにバランスシートを更に活用することを求める。

 

全ての人々のための、安全で繁栄ある未来を形作る(5項目)

16.経済のグローバル化とデジタル化に伴う課税上の課題に対応するとともにグローバル・ミニマム課税を導入する

ために、G20/OECDBEPS包摂的枠組みを通じて進められている努力を強く支持する。

我々は、大規模で高利益の多国籍企業について10%の利益率を上回る利益のうちの少なくとも20%に対する課税権

を市場国に与える、課税権の配分に関する公平な解決策に至ることにコミットする。

我々は、新たな国際課税ルールの適用と、全ての企業に対する全てのデジタルサービス税及びその他の関連する

類似の税制措置の廃止の間で、適切な調整を行う。

また、我々は、国別での15%以上のグローバル・ミニマム課税にコミットする。我々は、2つの柱について並行して

合意を進めることの重要性に同意し、7月のG20財務大臣・中央銀行総裁会議において合意に至ることを期待する。

17.デジタル・マネー及びデジタル・ペイメントのイノベーションは、大きな利益をもたらし得る一方、公共政策及

び規制上の問題を引き起こす可能性もある。

G7の中央銀行は、中央銀行デジタル通貨(CBDCs)の機会、課題、通貨及び金融の安定へのインプリケーションを探

求してきており、財務省及び中央銀行として、それぞれのマンデートの範囲内で、公共政策上の幅広いインプリケーシ

ョンについて、協働することにコミットする。

CBDCsは、適切なプライバシーの枠組みの中で運営され、波及効果を最小化すべきである。我々は、共通の原則に向

けて作業し、年後半に結論を公表する。

18.いかなるグローバル・ステーブルコインのプロジェクトも、関連する法律上、規制上及び監視上の要件が、適切

な設計と適用可能な基準の順守を通して十分に対処されるまではサービスを開始すべきでないことを再確認する。

クロスボーダー決済の4つの課題への対処に向けた目標に関するFSBの市中協議文書の公表を歓迎する。

19.FATF基準の世界各国における実施の評価及び支援における9つのFATF型地域体(FSRBs)の役割を認識する。

20.新型コロナウイルス危機の再発を避ける緊急の必要性を認識し、国際保健・財務の政策立案者間の国際協調と説

明責任を強化するため、関連する国際的なパートナーも交えて協働することにコミットする。   というものでした。

 

Ⅱ G7財務相会合の成果について米国のジャネット・イエレン財務長官は、「法人税の競争を終わらせる」「前例のないコミットメント」として歓迎し、「世界的な最低税は、企業の活躍の場を平準化し、労働力の教育と訓練、研究開発とインフラへの投資など、各国がポジティブな基盤で競争することを奨励することによって、世界経済の繁栄にも役立つだろう」と述べています。

 

 今回のバイデン政権の提案は、国内的には、法的な工作を通じて連邦税を何も支払わない一部の企業に少なくとも15%を支払うことを余儀なくさせようとするものです。同政権はまた、富裕層に対してより多くのIRS監査を行うことによって歳入を増やすことを目指しており、IRSへの800億ドルの投資が10年間で約7,000億ドルを調達する可能性があるとも主張しています。一方共和党は、バイデンのインフラパッケージの支払いのために、法人税率を21%から28%に引き上げる計画は、2017年のトランプ税制見直しに含まれる法人税率の引き下げを部分的に逆転させると繰り返し述べており、両党での相違には大きなものがあるようです。

 

今回の合意内容は米IT大手にとって税負担の増加につながる可能性があるが、国ごとに異なるデジタル課税のルールが乱立する事態に懸念を示してきた各社にとってはプラスの側面もある。米グーグルの広報担当者は5日付の声明で「国際的な税務ルールを更新するために行われている作業を強く支持する」と表明した。フェイスブックで国際渉外を担当するニック・クレッグ副社長も5日、ツイッター上に「今回のG7での重要な進展を歓迎する」と投稿した。「企業に確実性をもたらし、グローバルな税制に対する公衆の信頼を強化するための重要な第一歩だ」とも評価した。

 

Ⅲ 大きな一歩がスタートしたことだけは確かでしょうが、ルールの詳細はなお不透明な部分も多いようです。

グーグル親会社のアルファベットやアップル、フェイスブックの21年1~3月期の売上高に対する税引き前利益の割合が30%を上回るのに対し、利幅の小さいネット通販が主力のアマゾンの利益率は9%にとどまる。G7の共同声明はデジタル課税について「最も収益性の高い多国籍企業の利益率の10%超の部分に少なくとも20%の課税権を与える」と記したものの、利益率を基準とするだけではすべてのIT大手を網羅できない課題も残る。

 

米IT大手4社をデジタル課税の対象とすることはG7の税務当局の間ではすでにコンセンサスとなっているもようだ。5日のG7会合後の記者会見で対象にアマゾンやフェイスブックが含まれるのかを問われたイエレン米財務長官は、「ほぼどんな定義によっても当てはまる収益性の高い大企業が含まれると思う」と述べています。

 

今後の議論は20カ国・地域(G20)や経済協力開発機構(OECD)に舞台を移すことになるが、最低税率でのアイルランド等の低税率国の反発は必至で、多国籍企業の租税回避地とされるアイルランドのドナフー財務相は5日、ツイッターに「どのような合意も、小国と大国、先進国と発展途上国のニーズを満たすものでなければならない」と書き込み、G7メンバーをけん制しているようで、国際交渉の決着までにはなお曲折が予想される。またデジタル課税では、対象企業の売り上高などの詳細な制度設計が必要であることや、欧州等の独自課税の撤廃・凍結が難航しそうだとも云われているようです。                               以 上

 

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