2012年06月1日更新

2012年06月1日更新

2012年新緑号:財政再建を考えましょう

 我が国の経済動向を見ますと、昨年の震災の打撃からようやく立ち直りつつある中で、急速な円高の進行、さらにはヨーロッパの政府債務危機に端を発した欧米経済の停滞感が大きなリスクとなってのしかかってきております。そのような中で、先進国の中でも、GDP比で最大の国債発行残高を抱えるわが国の財政再建は、もはや待ったなしの状況にあり、年明け早々に、社会保障と税の一体改革を実現するための新政権がスタートし、目下国会審議の真っただ中であります。
 さて、税の図書館での、昨年11月の税を考える週間のための更新では、そのトピックスで、OECDにおける税への取組み、アメリカ、カナダでの財政再建論議等を見て来ました。そこで、今回は、ユーロ圏での財政再建について、2006年5月のヨーロッパ中央銀行による「先進国における歳出改革のケーススタデ-」と、2010年4月のゴールドマンサックス社のヨーロッパ諸国における財政再建からの脱落を避けるのに必要な点に焦点を当てたケーススタデーによる研究論文を検討し、又、わが国と同様の財政危機に見舞われているアメリカにおける、財政再建の動きを中心に眺めることとしました。

 ヨーロッパ諸国の経験からの教訓は、次の通りでした。

  • 歳出カットするなら、小規模や中途半端はだめで、かなりの規模の削減が行われないと長期的な財政の安定化にはつながりません。
  • 歳出出カットは、其れを補完したり、補充したりするなどの、総合的な施策が必要で、縦割行政的な施策の積み重ねでは、カットによるマイナス面だけが強く出る可能性があります。
  • 歳出カットに例外を設けるべきではないが、教育でのカットした国はなかったようです。
  • 国の規模や政体または経済の成熟度等により、財政改革へのアプローチはおのずと異なるようですが、地方自治体との一体性と役割分担の検討が必要となります。
  • 大規模な歳出カットの改革が経済の成長を阻害するとの不安は、根拠のないもののように思われます。
  • 歳出の削減を通じた財政再建策を断固として達成する国々こそが、力強い経済成長、低い借り入れコスト及び証券市場の活性化の目撃者となれるであろう。
  • 外国の経験が示唆することは、歳出の削減を超える増税によってもたらされる赤字の削減は成功しそうにないということであります。

 アメリカにおける超党派の財政再建特別委員会の報告書(財政の正念場)による教訓

  • このレポートの作成を付託したのは、オバマ大統領で、超党派からなる18名の専門委員を選任し、勧告を含むレポートの提出を、期限を定めて付託しました。
  • 委員会が行った答申での、6つの主な計画はつぎの通りです。
    1. 裁量歳出の削減:議会による予算の規律を強制するための、裁量歳出への厳しい上限を定めた法律を制定し、法的実行力を持たせるための強制メカニズムも含める。
    2. 全般的な税制の改革:税率の大幅な引き下げと、課税対象の拡大、税法の簡素化を行い、いわゆる税支出の削減により、赤字を減らすこと。法人税を改正し、アメリカの競争力を向上させること。
    3. 医療費の抑制:医療費補助予算の実現可能な観点での見直し及び追加的な歳出の増加を減らすための長期的な背策を定める。
    4. 必須の節約:農業の補助金、軍事の近代化、公務員の退職制度をカットし、一方で、奨学金制度の改革、年金保証基金を安定継続的なものとすること。
    5. 持続可能で貧困を削減するための社会保障制度の改革:今度75年間、高齢者の貧困を減らしながら、給付能力を確保できる社会保証制度を、財政赤字の削減目的ではなく、制度そのものの改革を行う。
    6. 予算手続きの改革: 予算手続きを国の債務が安定化するように改革し、歳出を管理可能な状態にし、インフレを正確に測定し、税金が正しく使われるようにすること。

 米上院の委員会での税に関する証言でのポイントは次の通りです。

  • いわゆる税制優遇措置と言われている法人と個人所得税の税支出は、年間で1兆ドルを超えています。これらの特典のほとんどをしめる約9,000億ドルが、個人所得税を通じたものであります。これこそが現在の財政危機の原因なのです。
  • 今日、記録的な数のアメリカ人52百万人、全申告者の36%が、納めるべき税額がないことから、国家との基本的な費用と何らの直接的な関係が存在しません。
    このグループをいくらか所得はあるが申告を行っていない者に含めると、アメリカの家計で所得税制の外にいる人々は、全体の48%に上ります。
  • 税制改正の第1の目標は、長期的な経済成長と国民の生活水準の向上のためであるべきです。もし、経済成長が副産物的に歳入を増やすことになれば、全てよしです。
    OECDのエコノミストによる最近の研究では、法人税が長期的な経済成長を最も妨げるものであり、高い個人所得税は2番目に有害であると報告しています。
  • 全ての税支出(税の特別優遇措置)を無くすことで、法人税率を35%から26%へ引き下げることができ、個人所得税率の最高税率を35%から23%へと引き下げることができるとしています。さらには、課税最低税率を10%から8%とすることもできると報告しています。

 以上が今回のトピックスから、私が得た感想・教訓です。

 大きな財政赤字を抱える国々の事情はそれぞれ異なりますが、わが国の財政赤字の大きさと、その解決の方向性については、我々の多くが認識していながら、問題解決の第一歩が踏み出せない状態が続いております。
 これを放置することは、現在だけのために、我々が拒む全てのおだやかな犠牲が、次世代の希望とチャンスに大きな犠牲をもたらすことになるのです。我々国民にできることは、国の指導者たちが(現在の私たちに不利益となる)難しい選択をするのを罰する(選挙で選ばない)のではなく、指導者たちが何もしないで後ずさりすること、すなわち適当に対応することを罰することだけであると確信します。
 米、英の議会でも、財政の再建については、超党派的に、しかも議会と行政が一体となって取り組むべき 喫緊の課題=正念場 であるとして、具体的な挑戦が始められています。我が国でも一刻も早く、改革のための第一歩を踏み出してほしいものです。

次回のトピックスでは、超党派での財政再建5カ年計画をスタートしている英国の取り組みを眺めることにしています。)

渋谷桜ケ丘「税の図書館」編集員 免出

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トピックスの目次
タイトル 英語
一 先進国における歳出改革のケーススタデ-(ヨーロッパ中央銀行)
二 財政再建からの脱落を食い止める(ゴールドマンサックス社の報告)第195号)
三 財政赤字削減での正しい税の役割(租税財団:財政指標の実態・第278号)
四 財政の正念場(財政の責任と改革に関する委員会の報告)
五 米上院の委員会での税に関する証言
「税の図書館」の本棚への追加
タイトル 日本語
平成23年度税制改正の解説  
平成24年度税制改正  
   税制改正に関する 法律 政令  
   税制改正大綱
   税制改正大綱の概要
   税制改正(内国税関係)による増減収見込額
社会保障・税一体改革大綱について(平成24 年2月17 日閣議決定)

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