2013年11月8日更新

2013年11月8日更新

はじめに

1 20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議
 7月20日、モスクワで開かれた20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議は市場を動揺させないよう「注意深く調整された」政策を約束することによって世界経済の回復を強固にすることを目指すとした共同声明を採択して閉幕した。
 世界経済は引き続き脆弱でばらつきがある。多くの国で、失業率は過度に高い。ユーロ圏では安定の兆しがあるが、景気後退が続いている。多くの新興国では成長が続いているものの、そのペースはより遅くなっている。米国と日本では経済活動が強まる兆しがある。
 多国籍企業が低税率の国・地域に利益を意図的に移転し、税の総額を削減することを国際的及び自国の課税ルールが許容、奨励しないことを要請するOECDの行動計画が提示されました。主として中国向けと思われる影の銀行(シャドーバンキング)の規制・監視強化のさらなる進捗が期待されました。
 10月10-11日 ワシントンD.C.において開催された20か国財務大臣・中央銀行総裁会議では、世界経済の回復は続いている。主要な先進国において改善の兆しが見られる一方、多くの新興国において成長が鈍化しているが、新興国は引き続き世界の成長の重要な推進力である。国内の成長を支えるために実施される政策が、世界の成長や金融の安定をも支え、これらの政策が他国に与える波及効果に対応するよう協力する。財政の持続可能性の確保は引き続き主要な優先課題であり、我々は、政府債務を持続可能な道筋に乗せつつ、短期的な経済状況を勘案するように中期的な財政戦略を機動的に実施するとのコミットメントを再確認する。サンクトペテルブルクで首脳により合意された意欲的な税の議題の実施を注意深く監視し、特に自動的情報交換のための新たな基準の創設やBEPS行動計画の実施に関するグローバル・フォーラムとOECDからの定期的な報告に期待する。加えて、我々は、グローバル・フォーラムが、要請に基づく情報交換の効果的な実施に関する包括的な国別評価を完了させるとともに、当該基準の実施の継続的な監視を確保する必要性を再確認する。我々は、FATFの作業へのコミットメントも再確認する。等の共同声明を採択して閉幕しました。

2  OECDの国際税務プラン:長い道のりの第一歩
 G20での後押しを受けて、OECDは、多国籍企業による租税回避の取り締まりを目的とした主要な新構想を提案しました。40ページ の報告書は、スターバックス、アップルやグーグルなどの知名度の高い米国ベースの企業による積極的な税務計画の広範な国際的な批判に従うものであります。OECDの報告書では、ベース侵食とシフト利益に関する行動計画では、15勧告を行っています。
 ・ 特に知的財産やその他の無形固定資産については、移転価格の厳重な取り締まりを行います。このやりかたは、企業は、低課税地域における収益を最大化し、高課税国での損金を最大とする方法でその子会社間での資産や経費を移転することができるのです。
 ・ 企業に対し更なる透明性を求めます。企業は、彼らの利益金額、販売額および納税額を国ごとに開示しなければならなくなるでしょう。
 計画はすでに重要な議論を開始しています。しかし、これまでに採用されたこれらの提案の多くのチャンスがスリムです。OECDタイムラインでは、2015年末までにそのフレームワークを具体的な提言にすることを求めています。その後、各加盟国は、法律の執行力を持たせるためにその提案を承認しなければならなくなるでしょう。
 しかし、多くの専門家はこの計画の実効性に疑問をもっているようです。移転価格の取り締まりのためには、企業の内部取引価格のベンチマーク(指標)が必要ですが、市場価格の指標を見出すことは簡単ではありません。企業はあらゆる手段を通じて、税を回避しようとします、ハーバード大学のステイ―ブ・シェイ教授は、全ての国・地域にける税を回避して深海に消える収入を”海の収入”と呼んでいます。現在の不完全な報告制度の下では、税務当局でさえもこれを並べ替えるのは至難の業です。企業による完全な情報の開示は、これに多くの光を当てることなる可能性は残されています。このたびの提案は、透明性の向上を目的としているということです。これは、国際協力のために必要な最初のステップであると思われます。
 目指すべきは、企業誘致合戦等で、税の競争に明け暮れている国々に対し、多国籍企業が世界中での所得について、納税の義務がある国・地域において、1度だけ税を支払うということを各国が十分に認識し、本当の意味の協力をすることなのでしょう。OECDのこの報告書が、其話し合いの進展のための最初の第一歩となることを祈りたいものです。

3 アメリカの税制改正の動き
 下院の歳入委員会は第112議会での包括的な税制改革に関する20回の個別のヒアリングを開催し、2011年10月に国際的な税制改革のディスカッションドラフトをリリースし、2013年1月に金融商品のディスカッション・ドラフトを発表しました。2月13日には、デイブキャンプ会長(R-MI)とランキングメンバーサンダーレビン(D-MI)は、11の委員会の税制改革作業グループの創設を発表しました。
  各作業部会の使命は、その担当分野の現行法の検討と利害関係者、学者やシンクタンク、実務家、一般市民、および同僚の国会議員からの意見を取りまとめることでした。2013年5月6日、JCT(税制合同委員会)は、同委員会のスタッフが作成し、各作業部会が担当する分野の歳入法典の関係する現行法令、外部から出された制度の改正意見やその他の解説等を書いたJCS-3-13を公表しました。
其資料では、委員会議長らの求めにより、税制改正に関しての議員、委員会その他から、過去数年の間に提出された選ばれた提案も簡潔にまとめています。
 アメリカがかかえる最大の問題は、2院制議会のねじれでした。そのためオバマ大統領は、2015年までに、財政赤字の金利部分を除いて、財政を均衡させ、義務的な歳出の伸びと国の歳入と歳出のギャップの変動を含む長期的な財政予測を効果的に改善するための勧告をおこなうための国の委員会を立ち上げました。委員会は、民主党の前クリントン首席補佐官、アースキン・ボウルズおよび共和党のアラン・シンプソン上院議員を共同議長とし、2010年12月に総合的な税制改革案を含む計画の報告書を発表しました(ボウルズ-シンプソン提案)。其報告書は、個人所得税の限界税率の引き下げ、課税標準の拡大、個人所得税の簡素化および税支出の削減による財政赤字の削減の概要を述べています。同提案は、法人税の改正も提案しており、国の歳入のGDPに対する割合に限度を設けています。

 では、上院の財政委員会の動きはどうでしょうか。
 上院財政委員会のボウカス委員長とハッチ上級委員は、2013年6月27日付の同僚あての「税制改革の次のステップ」と題する文書で、両氏は、これまでのアメリカにおける税制の検討の経緯を述べるとともに、税制改正を提案するにあたっては、租税特別措置の白紙撤回を前提とした税制の再構築が必要であるとして、次のように、同僚議員の意見具申を求めています。
 『アメリカの税法典は壊れています。直近の税法典の改正の主なものは、1986年の改正で、多くの人々から税制改正の模範となる改正であったといわれています。しかしながら、それ以来、経済は大きく変化し、議会は15,000回以上もの多くの税制改正を行いました。その結果は、課税標準は、非課税、費用控除、税額控除でわけわからなくなってしまいました。その上、毎年、税法を守るのに、1,600億ドル以上の費用を納税者に費やさせるのです。税法の複雑性、非効率性及び不公正性は、我々の経済のブレーキとなっています。私たちは、それで自己満足する余裕なんかありません。この3年間、財政委員会は、超党派ベースで税制改革に取り組んでまいりました。我々は、30以上の公聴会を開催し、税法改正について、-どのようにして個人と事業者にとって簡単なものとし、もっと繁栄と競争を誘発するものとするか-について多くの専門家からのご意見を聞きました。その上、この3ヶ月間には、全部で160ページ以上に亘る税法のすべての分野で我々が考えている詳しい改革のための提案を取りまとめた10の超党派の選択肢の文書を発表しました。合同委員会はこれらのオプション文書と、如何に計画を実行に移すかを議論するために週1回のペースで会合をもちました。我々は現在ホームストレッチにかかりつつあります。』と協力を促しています。

4 アメリカ議会両院のねじれ
 ねじれによる、アメリカ両院での予算のイデオロギーの溝はどんなものなのでしょうか。TAX POLICY CENTER のハワード・グレッグマンによる記事によれば、アメリカ上下両院による、予算書による考え方の違いは次の通りです。

2014年~23年における歳入と歳出のGDP比
  上院予算委員会 下院予算委員会
歳入 19.3 18.8
歳出 21.7 19.5

 これによると、今後10年間での国の歳出の対GDP比の平均値は、上院のパネルが21.7%としているのに対し下院のパネルは、19.5%としています。その違いは10年間で約6兆ドルに達しています。
 その間の歳入の対GDP比の平均は、上院が約19.3%になるとしているのに対し、下院のパネルの目標は、18.8%です。その違いは、10年間でおおよそ1.1兆ドルになります。2023年には、上院の計画では、歳入は、GDPの約19.8%を確保するとしているのに対し、下院の計画では19.1%を徴収するといしています。数字だけを見ると、歳出の違いは大きいのですが、歳入の違いはそんなに大きくはありません。その違いは、両サイドともに、税法における優遇措置を減らす考えのようなので、歩み寄りの可能性もありえます。GDPの数10分の1のギャップを埋めることは、手が届かないものとも思われません。
 下院のポールライアン予算委員長の予算書の序言からの引用ですが、『資金の制約は、国は印刷機を動かすでしょう。この世代間のわれわれの窃盗の最終段階では、我々の通貨の価値は下落するでしょう。国は我々の報いを欺くでしょう。我々の財政は破たんするでしょう。経済は行きづまるでしょう。社会保障は破綻するでしょう』であり、一方上院のパット・マーレイ委員長の予算委員会は、国の積極的な役割を維持することで、『国はすべての問題を解決できるわけではありませんが、国は仕事を作り出し、中産階級を支援し、自立できる仕事に就きつつも、支援を必要とする家族には手を差し伸べることができますしまたそうすべきでしょう。』としています。一部の解説者達は、『実際には、これらの計画のいずれとも法律になることはないでしょうし、高齢化のベビーブーマー世代の財政への圧迫があるとすれば、持続可能な財政は期待できないでしょう。かといって、イデオロギーのキツネの穴を、どちらの側も、もっと深く掘るのをやめるようには思われません。』
 と書いており、もしそれが現実となったら、その穴は、国の墓穴となるのでしょう。

 10月1日にスタートした新年度早々、ねじれ議会の対立から、予算が成立せず、一部政府機関の閉鎖や、職員の自宅待機を余儀なくされました。一言でいえば、共和党が多数を占めている下院が、民主党が多数を占めている上院とオバマ大統領によるいわゆるオバマケアの執行を遅らすことを条件としていることについての決裂によるものです。債務上限の引き上げの期限10月17日直前まで、イデオロギー論争が行われました。
 米政界に詳しい識者などの話を総合すると、1)米下院共和党のベイナー議長が、共和党議員に党議拘束を求める「ハスタート・ルール」の適用をやめれば、下院で民主党案が可決されるとか、2)オバマ大統領が憲法修正14条を根拠に大統領の権限で債務上限を引き上げる──などの道があることのようですが、最終的には、これまでと同様の一時しのぎ的な議会の手続きで10月17日のデフォルトは回避されました。しかし、ねじれ議会における民主、共和両党の対立が先送りされた状態に変わりはないようです。この停滞要因によるアメリカの損失は、下院議会の民主党少数派のリーダーであるナンシー.ペロシ氏によれば、16日間の政府の一部閉鎖による経済的損失は、$240億ドルに達するとしています。2014年の年明け早々に同じような事態が繰り返されることがないようにしてほしものです。

5 法人税率の引き下げ
 日米双方で、議論となっている、先進国で法定税率が高いとされている、法人税率引き下げの問題です。
アメリカの動向では、タックスポリシーセンターのレポートと、アメリカ会計検査院のアメリカの大法人の実効税率に関する議会への報告を引用してみました。其論点は、法人税の引き下げによる税収減の代替税源があるのかどうかの問題と、特に大規模法人についての法人税の法定税率と実行税率の違いについての検査院(GAO)の議会報告であります。その主な要因が、大法人への税の優遇措置:いわゆる税支出(タックス・イクスペンディチアー)等と呼ばれるもののせいであることと、其れによる法人の節税効果等の推計に関するものであります。表面上のいわゆる法定税率と実質的な税負担等の違い等を把握したうえでの税率の見直しが必要であるゆえんであります。わが国でも、法人実効税率を引き下げるには、同時に課税ベースの拡大が必要であるとの観点とそれとも関連する残高76兆円もの繰越欠損金の取り扱い等が問題点の一つになってくるようです。

6 わが国における消費税の増税の閣議決定
 アメリカの予算騒動の時を同じくして、先の選挙でねじれを解消した我が国においては、10月1日の閣議で、来年4月の消費税8%が決められました。消費税の税率のアップは実に17年振りで、その間に総理大臣は10人が交代し、国の借金は3倍近い1,000兆円に膨らんでいます。
 安倍総理は、記者会見で、
 1)12月の5兆円規模の経済対策、
 2)消費税の税収増は社会保障費だけに充当、
 3)法人実効税率の引き下げの真剣な検討、
 4)復興特別法人税の1年前倒しの廃止の検討、
 5)消費税の10%への引き上げは今後の経済状況を総合的に判断して、判断時期も含め適切に決断する旨の捕捉説明をおこないました。
 それにたいする識者の反応は、消費税そのものについては是とするものが大勢を占めたようですが、補正予算については、経済成長の観点だけでなく、財政再建すなわち最大の歳出先である社会保障制度のあり方の検討をないがしろにすべきではないとの指摘がなされています。
 10月21日の衆議院予算委員会で、臨時国会のわが国経済の成長実行への論戦が本格的に開始されています。

 いずれにしましても、今年も恒例の税を考える週間〔11月11日(月)~11月17日(日)〕の時期になりました。今年のテーマは「税の役割と税務署の仕事」のようで、① 税の役割や適正・公平な課税と徴収の実現に向けた庁局署の取組について紹介する。② e-TaxをはじめとしたICT化に関する諸施策について紹介し、利用促進を図るほか、国際化に関する施策等のPRが中心になるようであります。
 「この世で避けて通れないものがある、それは、死と税金」と、かの有名なベンジャミン・フランクリンさんが言っていますが、同氏は「今日できることを明日に延ばすな。いつかという言葉で考えては失敗する。今という言葉を使って考えれば成功する。」とも仰ってます。簡単に言えば、誰かさんが言っている「今でしょう」ということでしょう。この機会に、世界最大の借金大国の汚名を返上するために、避けることのできない税について、みんなで考え、行動に移すのは、今でしょう というテーマで、私自身に何ができるのかまたは何をすべきなのかを考える週間にしたいものです。皆さんもいかがですか・・・

渋谷桜ケ丘「税の図書館」編集員 免出

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トピックスの目次
トピックス 英語
G20関係 2013年10月10~11日、於:ワシントンD.C.〔財務省仮訳の共同声明〕
  2013年7月19~20日、於:モスクワ(同上)
  改訂FATF勧告の概要  
OECD ベース侵食とシフト利益に関する行動計画ベース侵食とシフト利益に関する行動計画 これに関する記事(Tax Vox より)
アメリカ 「包括的な税制改革」(下院の歳入委員会)
  「税制改正ワーキンググループへ提出された改正意見等」(税制改正合同委員会):JCS3-13
  「税制改革の次のステップ(上院の財政委員会)(抄訳)
  ボーカスとハッチ両氏の税制改革の「白紙撤回」アプローチ(Tax Vox の記事) 出典
  アメリカ会計検査院(GAO)の大法人の実効税率に関する議会への報告(抄訳)
  『法定税率と実効税率は違います』
  世界展開しているアメリカの大企業の実際の税負担は、16.6%(Tax Vox の記事)
  法人税率カットによる歳入減を補うのは困難(同上)
日本 消費税率引き上げの閣議決定       本文   
                            概要  

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